令和元年度は、昨年度に引き続き、瑕疵ある組織再編の効力に関連する諸問題についての研究を行い、その成果の一部を公表した。 特に中心的に研究の対象としたのは、組織再編行為の役割の一部を代替する制度として利用されてきた全部取得条項付種類株式制度である。同制度については、キャッシュ・アウトの領域で組織再編類似の機能を果たしているにもかかわらず、組織再編行為について用意された形成無効の訴えに相当する仕組みがない。その前提となる株主総会決議が取り消されれば当然に無効となるものと整理されており、立法論としての是非も含めて、同制度についての分析は、組織再編行為の効力に関連する問題を考える際に、よい比較対象となる。 研究期間全体を通じて、瑕疵ある組織再編行為やそれに類似した各種行為の効力に関連する諸問題について様々な研究を行い、その成果の一部を公表してきた。たとえば、特別支配株主の株式等売渡請求の無効の訴えの必要性に関する批判的な検討、事前手続の懈怠による株式交換の無効に関する裁判例の分析、仮装払込みによる新株発行の効力についての検討、組織再編行為における対価の不均衡を効力問題として考えることの是非や現行法の枠組みの中での従来の通説的な整理の是非についての検討、会社分割制度における権利義務の変動やその結果を、形成無効の訴えという仕組みによらずに、一般法理によって実質的に否定することの検討などである。これらの研究を通じて、我が国の現行法における組織再編行為の無効の訴えという仕組みには様々な問題があり、場面に応じてよりふさわしい効力問題の取扱いを指向すべきことが明らかとなった。
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