日本における信託制度は、合意によって設定される明示信託が念頭に導入されている。しかし、信託法理の根幹は、合意のないところでも課されうる「責任」にこそある。そこで、本申請研究では、所有権を主とする物権を根拠とする責任、合意に基づく責任と過失に基づく責任に加え、信託法理による説明原理を一般化することを目指した。 信託法理による保護に対立あるいは併存しうる理念として、動的安定性に着目した経済的利益と予測可能な法的安定性がある。各理念により達成される利益の優先による正当化により、明確な線引きを達成する具体的な基準を導くことは困難である。しかし、各理念を踏まえた上での政策決定として有るべき法秩序の評価についてのバランスを取った制度設計を模索するべく、境界事例における意見や価値判断の対立について具体的事案を対象に考察する必要がある。 平成31年度は、上記の問題意識に照らし、総括として、信託法理の日本法における位置づけを再検証するために、日本における最新の不当利得法の整理についての情報収集を広く行った。また、一部の具体例について、関連分野の研究者との議論も行い問題点を洗い出すことができた。 特に、現行不当利得法の一般規定的なあり方については疑念も提起されており、そういった立場からのご批判はあるように思われるが、既存のルールを契約や物権等の各秩序に分散化した場合にも、一般規定的が総則あるいは総括的な機能を有するべきであるというのが本研究の結論であり、その際に、その主要な原理にプラスした信託法理由来の原理と、総括的には機能しない信託法原理を整序した上での立法化提言を公表論文において別に行う予定である。 なお、上記記載については多くの先行業績が関連し引用を要するところであるが、今後の公表論文において詳細な引用を行うことを前提とするものであり、ここでは省略することをご了承いただきたい。
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