研究課題/領域番号 |
15K03216
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
半田 吉信 駿河台大学, 法学部, 教授 (10009730)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 消滅時効 / 民法改正 / 相続法 / EU法 / 法の平準化 / 債権法 / 契約法 / 親族法 |
研究実績の概要 |
ヨーロッパにおける私法の平準化とわが国民法の改正がテーマである。初年度は、消滅時効法の改正に焦点を当てて研究した。1980年代にドイツのツィンマーマンが発案した新しい時効制度は、2001年のドイツの新債務法で導入されただけでなく、PECL,PICC,DCFRなどのヨーロッパのソフトロー、さらには2008年のフランス民法などにも取り入れられ、2015年に仮案が提出されたわが国の新時効法草案でも導入されている。わが国の仮案の法制は、ドイツ新債務法とも共通点があるが、フランス新時効法で採用された短期5年の時効法を採用し、その妥当性が問われている。しかし、この新制度はイギリスでは導入が見送られている。これらのヨーロッパの新制度作成の状況を各国の資料を手掛かりに詳しくフォローするとともに、新しいわが国の時効制度としていかなる法制が適切であるのかを詳しく精査した。筆者の考え方は、初年度に公刊した幾つかの論文において詳述されているが、要約すると、長期10年ないし20年、短期5年、時効中断事由の幾つかを停止事由に転換するという新時効法の体系は、日本に取り入れるとしたら、それは世界の法制度のトレンドに従うものにほかならないが、国民の権利行使に対する意識の改革、調停、ADR機関の利用のし易さなどの要件をクリヤーすれば、わが国でも受け入れられないものではないというものである。もっとも、このような権利者にとって厳しい時効制度を2002年から施行しているドイツで今日までになされている様々な指摘も考慮する必要がある。 ヨーロッパにおける法の平準化は、民法の分野に限ってみても、親族法、相続法の領域にも拡大されている。2015年にはオーストリアで新相続法の草案が公表された。次年度以降は、契約責任の要件としての帰責事由の問題、ヨーロッパで盛んになった婚姻、扶養の問題や相続法の改正などにつき研究したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
民法の改正問題は多くの分野にまたがり、そのどこから始めるかが問題となる。本研究は、民法総則の消滅時効から開始した。意思表示論はその前にすでに研究を行った。今回の民法改正は、債権法中心であり、債権総論の中の多くの制度、契約法に属する多くのテーマも対象となりうる。消滅時効の問題は初年度で一応終わり、債権法、家族法の分野に研究の対象を移していきたいと考える。消滅時効の制度も、ドイツ、フランス、スイス以外のヨーロッパ各国の民法改正の動きが伝えられており、これらについても研究の対象に加えうる。
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今後の研究の推進方策 |
ヨーロッパでは、ドイツ、EUを中心にして新しい法制度が次々と打ち出され、現代に即した新しい民法典の制定、改正が進められている。このようなヨーロッパにおける法の進展(平準化)は、今日のようなグローバルな世界では、そのままわが国の新しい民法ルールの制定、採用にも結び付きうる。本研究は、新しくヨーロッパの各国またはEUで制定される新しい私法ルールをわが国に紹介するとともに、これまで知られていたヨーロッパ各国の私法ルールと比較し、また日本の私法ルールとの比較をも行って、わが国の私法ルールの改定、新制度の採用の是非、その限界などを学問的に精査することを目的とする。ヨーロッパ各国で出版、公刊された資料を収集し、それらを閲読するとともに、日本の立法資料、学術研究をも渉猟して、それらの比較研究を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
最新のドイツのコンメンタールの全巻やカタログに掲載された専門書(外国文献)を注文したが、その発行の日が必ずしも一定でなく、次年度に持ち越されたり、結局発刊されなかったりして、支出を予定していても、同年度に支出できない場合もある。また外国出張の際の航空機代金、ホテルの宿泊料もレートが変わって、予定額と一致しなくなる場合も多い。そのため若干の予算の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度(第二年度)も、文献、資料の購入、複写を中心に経費の使用を図る予定である。また期間中一回のヨーロッパ(ドイツ)出張を予定しており、そのための費用を科研費から支出する予定である。
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