本研究は、ヨーロッパ私法の近時の展開を各国における民法の分野に属する法律の改正作業を中心にして素描し、日本の私法、特に民法の改正と比較対照することにある。各国の法改正は、それらを通じて問題になる法の平準化を一般的な特徴とする。本研究で取り上げたのは、主にドイツ、フランスおよび日本における消滅時効法の改正とオーストリア相続法および日本の相続法の改正であるが、特に前者では、1980年代にドイツのツィンマーマンなどによって提案された、消滅時効法を一般的に二重期間制限とし、比較的短期の時効期間を定める新ルールが、2002年のドイツ新債務法、2008年のフランス民法改正、2016年の日本の新債務法でいずれも採用されるに至った。ただし、イギリス法はこの限りでなく、イギリスの伝統的な時効制度が維持されている。すなわち消滅時効の分野では、例外もあるものの、法の平準化が21世紀に入って進められたことになる。本研究の成果の一つとして、このうち最も早く制定されたドイツの新時効法の施行後の判例、学説の展開を、現地での資料収集に基づいて詳述する論稿を公刊した。相続法改正については、オーストリアなどヨーロッパ各国の法制度は、内縁の配偶者にも制限的ではあるが相続を肯定するなど日本の法改正よりもはるかに先を進んでいることが印象的である。本研究の成果の一つとして日墺の新相続法の比較研究を行った論稿も公刊した。 本研究では、上記の研究に続く比較法的研究、例えば、債務不履行による損害賠償の要件として債務者の帰責事由を要求するドイツ、スイス、従来の日本の立場とこれを要件としない英米法、2016年の日本の新債権法(起草者)の立場が対立していて、どのように収束させるべきかが当面の課題となっていることから、両立場の比較検討を本格的に行うための資料収集もまた行った。
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