最終年度となる今年度は、昨年度まで研究の対象としてきた大陸法に加え、新たな示唆を得るべくアメリカ法の研究に着手した。日本におけるアメリカ法の財産管理・承継制度に関する研究蓄積は乏しく、法制度及び実態を含む現状を知るために、秋に渡米した。アメリカは遺言による財産承継が一般的な国と言われているが実態は大きく異なることをはじめ、極めて初歩的な実態の把握に手間取り、当初予定していた細部にわたる調査を行うに至らなかったが、今後の研究に必要な資料を収集することはできた。 本研究は、超高齢社会における財産承継・管理、とりわけ、相続人等の縁故者がいない者の財産の承継・管理の在り方について検討することが主な目的であった。2015・2016年度は、相続人不在、所有者不明財産等の現状を把握するとともに、現行法上、財産管理のために利用可能な制度として、成年後見制度、財産管理委託契約等を、財産承継のために利用可能な制度として、贈与、死因贈与、遺贈、さらには信託等を概観し、これら既存の制度の利用で対応可能な問題と、それが不可能であるために新たな制度等が必要な問題とに分けて考察した。その過程において、大陸法における類似の制度を参照し、比較する作業も行った。これらの研究成果の一部は、論文としてまとめるとともに、日本(九州法学会)及び海外(忠北大学校国際学術大会、日韓家族法学会)において口頭でも発表した。また、同時期に、高齢社会における財産承継の在り方をふまえた相続法改正作業が進行したため、継続的にその動きもフォローした。複数の論文において、その是非及び今後の課題等を指摘するとともに、税の優遇措置などによる贈与の利用促進等、新たな制度も提案した。 本期間中に終えることができなかったアメリカ等の外国法の研究は今後も続け、母法である大陸法に関する研究成果とあわせて1本の論文にまとめる予定である。
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