平成29年度は、渉外民事紛争解決の観点から、メディエーションと対極の関係にある判決とくに外国判決の承認の問題について検討した。メディエーションを含む代替的紛争解決手続(ADR)は私的紛争解決手段であるのに対して、外国判決は国家機関による紛争解決手段である。両者の相違は、さまざまな観点からとらえることができるが、一つの側面として相互保証の問題がある。メディエーションを含むADR手続の承認に際しては、相互保証を要求しないのが国際的な扱いである。たとえば、仲裁手続に関してはニューヨーク条約やUNCITRALモデル法では、仲裁判断の承認に際しては相互保証の要件は不要とされている。また、メディエーションは和解に類するとの性質決定の下、和解契約の準拠法によって承認するという考えも示されており、この見解では相互保証の問題は生じない。これに対して、外国判決の承認では相互保証を要求する立場が多い。しかし、近時、比較法的には相互保証の要件を廃止する国々が現れてきており、わが国の民事訴訟法118条4号が定める相互保証の要件の意義を問い直す契機が生じている。そこで、「外国判決承認要件としての相互保証 --その現代的意義--(1)(2・完)」法学研究90巻11号1頁以下、12号25頁以下(2017年)において、相互保証制度の歴史的経緯、日本における同制度の法継受、外国における相互保証制度を明らかにし、日本における学説および判例の状況を確認したうえで、日本における相互保証制度の批判的検討を試みた。 また、メディエーションと訴訟手続が国際的に競合した場合の扱いについても、問題となり得る。訴訟とメディエーションを等価値とみることができる場合には、国際的訴訟競合の一つの場合として検討することになる。この点については、小林秀之編著『国際裁判管轄の理論と実務』(2017年、新日本法規出版)365頁以下で論じた。
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