研究課題/領域番号 |
15K03222
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
新堂 明子 法政大学, 法務研究科, 教授 (00301862)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 過失不実表示 / 過失不法行為 / ヘドレイ・バーン対ヘラー / 責任の引受け |
研究実績の概要 |
(1)社会保険給付と損害賠償との間の損益相殺的な調整に関して、2つの最高裁大法廷判決(最大判平5・3・24民集47巻4号3039頁および最大判平27・3・4民集69巻2号178頁)がでそろい、この領域をめぐって争われていた問題は細部にわたって解消されたといえる。そこで、この2つの大法廷判決を含む最高裁判決およびその調査官解説を中心に検討し、その内容を確認した。さらに、判例の分析に必要な範囲で、行政実務も踏まえた上で、研究論文にまとめた。 (2)過失不実表示に関するリーディング・ケースであるヘドレイ・バーン対ヘラー貴族院判決50周年記念論集のうち、理論に関して論じる4つのエッセイを概説し、同判決の内容を詳しく見た上で、同判決の理論的または政策的な背景および影響を検討し、研究論文にまとめた。以下、その内容を概説する。 過失不実表示に基づく責任に関して、その基礎を過失不法行為(ネグリジェンス)法によって課された点に求める学説と意思ないし契約によって引き受けられた点に求める学説とが対立する。その背景には、イデオロギーの変化がみてとれる。1960年代まで、イギリスは空前絶後の経済成長を続け、これに対し厚生主義が台頭することによって、1960年代に至り、過失不実表示に基づく過失不法行為責任が認められたと評価する学説がある。裁判所は、物理的損害から経済的損失へと過失不法行為判例を積み重ねながら、また、近隣性ないし近接性の要件に責任の引受け等の他の要件を包摂しながら、過失不法行為責任を認めてきたと考えるのである。しかし、ここ数十年の間に、社会は一変し、これによってイデオロギーも変化し、過失不実表示責任の内容も変化を余儀なくされている。この新しいイデオロギーは保守主義の色彩が濃く、責任は、法によって課されるのではなく、意思ないし契約によって引き受けられたときしか生じないと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、錯誤、詐欺、不実表示および説明義務違反に関する要件論と効果論の究明、さらに、上記諸制度の関係の究明を目的とする。 (1)平成28年度は、錯誤についてまとめる予定であったが、錯誤に隣接する不実表示についてまとめた。そこで、平成29年度は、錯誤および不実表示の両方をにらみつつ、こまめにまとめていきたい。 (2)平成28年度は、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償法理(損害論、効果論)について、損益相殺的な調整に限定して、詳細に検討し、研究論文にまとめた。平成29年度以降、上記諸制度の要件論の検討を進めるとともに、上記諸制度の効果論の検討を始めたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、錯誤、詐欺、不実表示および説明義務違反に関する要件論と効果論の究明、さらに、上記諸制度の関係の究明を目的とする。 (1)イギリス法における錯誤の要件論および効果論、さらに、解釈論および立法論についてまとめる。 (2)イギリス法における不実表示の要件論および効果論を検討する。 (3)債権法改正に関連して、平成29年度は、第三者のためにする契約の要件論、効果論および改正の内容をまとめなければならない。上記諸制度との関連性を見極めつつ、検討を進める。とりわけ第三者のためにする契約法と不法行為法との交錯について解明しなければならない。
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