本年度は、第三者のためにする契約の意義、ならびに要件および効果について総合的に検討した。 ローマ法以来、第三者のためにする契約は無効であるというのが通説であった。その理由は2つあり、日本民法がこれらの理由をどのように克服したかについて検討した。これを概説すれば、つぎのとおり。第1に、契約の有効性の問題である。日本旧民法は、「要約者カ合意ニ付キ金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ正当ノ利益ヲ有セサルトキハ其合意ハ原因ナキ為メ無効ナリ」(同法323条1項。旧法令集)と定めた上で、「第三者ノ利益ニ於ケル要約ハ要約者カ自己ノ為メ為シタル要約ノ従タリ又ハ諾約者ニ為シタル贈与ノ従タル条件ナルトキハ有効ナリ」(同条2項)と例外を規定していた。現民法は、旧民法にいう利益は有形のものにとどまらず無形のものでもよいと解して、この問題を克服した。第2に、契約の相対効の原則である。日本民法は、契約の当事者の意思を基礎におくことによって、契約の相対効の原則を転換し、第三者のためにする契約を原則として認めた(537条1項)。関連して、第三者のためにする契約における受益の意思表示の意義を検討した(537条3項、538条1項)。 また、要件および効果を詳細に検討したうえで(537条~539条)、どのような契約が第三者のためにする契約だと性質決定されるかについて網羅的に検討した。検討対象を列挙すれば、生命および損害保険契約、物品運送契約、他益信託設定契約、弁済供託、有価証券発行行為、電信送金および振込、和解契約、物権取得契約、債務免除、債務引受、権利義務ないし法律関係の承継、負担付贈与、寄付、規範設定契約、労働協約、責任免除または制限条項など多岐にわたる。
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