研究課題/領域番号 |
15K03226
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松村 和徳 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (20229529)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 手続集中 / オーストリア民訴法 / 裁判官の積極性 / 更新禁止原則 / 争点整理手続 / 続審制 / 事後審制 |
研究実績の概要 |
「適正で迅速な裁判の実現」は、民事訴訟改革において繰り返し掲げられた目的である。「適正で迅速な裁判の実現」という目的を実現するためにどうような方策をとるか、換言すれば、審理の迅速とその充足(適正さ)の調和をどのように図るかについての方策として最も重要と考えられるのが、本研究の対象である「手続集中」である。 わが国における「適正で迅速な裁判の実現」という思考とその実現の試みの出発点は、大正一五年の民事訴訟法(大正一五年法律第六一号)に遡ることができる。大正民訴法改正時に立法担当者がとくに意図したのは、「訴訟遅延の防止」と「裁判の適正」であり、「手続集中」を民事訴訟法の指導観念とした。そして、それは訴訟促進を実現した一八九五年のオーストリア民事訴訟法の影響を受けていた。このオ民訴法においては、「真実発見」と「迅速な訴訟」に重大な価値が置かれ、この相反するとされた目的を「手続集中」理念により結びつけたのであった。その手続集中理念実現のための方策として、現在でも機能しているとされるのが、「裁判官の積極性」と「更新禁止原則」である。当該年度の研究の中心は、モデルとなったオ民訴法におけるこの手続集中の意義とそのためのこの二つの方策を明らかにし、それに基づき、わが国における現行民訴法の中核である争点整理手続の再検討と、現在の裁判実務が行っている控訴審の「事後審的運用」を検証することであった。前者においては、とくに民事訴訟法165条の解釈・運用論によりわが国における裁判官の積極性の実効化(手続集中化)が可能となる旨の立論を展開した。また、後者では、大正民訴法改正から昭和期の改正を経て、現在までの立法議論を概観し、実務の事後審的運用の正当性を検証することができた。 これらの研究を通して、当該年度の研究では、手続集中の重要性とわが国におけるその具体的実現方法の方向性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究において、当初の予定では、手続集中理念の生成からオーストリア法における発展の過程を明らかにすることを主たる目的としていたが、わが国での議論状況との比較法的考察もある程度でき、とくに、更新禁止原則と裁判官の積極性という手続集中理念実現のための柱となる方策について、つまり、本研究の主要部分は、ほぼ研究成果をまとめることができたからである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、主たる目的としてきた手続集中理念の生成からオーストリア法における発展の過程及び更新禁止原則と裁判官の積極性という手続集中理念実現のための柱となる方策についてわが国での議論状況との比較法的考察もある程度できた。 今後は、これまでの研究でまだ不足していたわが国及びドイツ法の裁判官権限の変遷と諸制度の比較法的考察を推進していく予定である。また、可能であれば、アメリカ、イギリス法、英米法諸国の法制度との比較考察も行いたい。とくに、裁判官の積極性の展開は、世界的趨勢でもあり、また反面で憲法的側面からの抑止的な動向もあり、手続集中の実現の方策研究としては、看過できない新たな側面が登場してきている。そこで、そうした新たな状況についても比較法的研究を実施したい。 その他の点では、例えば、手続集中の方策の一つとして弁論準備制度の変遷についてわが国の変遷についての研究でまだ不十分な部分があった。とくに、戦後昭和期の変遷が不十分であり、またこの点は弁論主義等の民事訴訟法の基本原則とも関連してくる部分があり、その研究の補完を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での出張・調査・研究等を予定していたが、訪問先とスケジュールを合わせるこ とができなかったため、その費用等で次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に実施できなかった国内外での調査・研究に係る旅費等の経費に充当す る。
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