最終年度に当たる平成29年度では、本研究のテーマである消費者役務提供契約の解消法理について、昨年度に行われた国内外の文献の読み込み等による分析を基礎として、論文の執筆に傾注してきた。とりわけドイツにおける結合契約および関連契約における「撤回の貫徹」というテーマについて論じたもの(雑誌論文1)は、一方の契約が他方の契約と結合し、または関連する場面において、一方の契約の撤回が他方の契約にどのような影響を及ぼすのかという点を問題とするものである。わが国では、いわゆる「複合契約」と呼ばれるものに相当する場面の一例である。 また、昨年度に、通信販売における撤回権をめぐる日本およびドイツの法制度の比較について九州大学で報告した内容は、加筆修正の上、「The Right of Withdrawal in Consumer Contracts: From the Perspective of Legal Certainty」とのタイトルで書籍に収録された(図書1)。 さらに、消費者法に関する教科書において、わが国における複合契約についてその現状を確認するとともに、残された課題を明らかにした(図書2)。たしかに、消費者役務提供契約にのみ関連する内容ではないが、一方の解消が他方にどのような影響を与えるかについて、その問題性を再確認するものとなった。 総じて、これらの研究実績を通じてもなお消費者役務提供契約の解消法理の理論的解明の余地は残されているといえるが、特に他の契約と結合するような複合契約の場面においてどのような影響を与えるのか、その際「役務」という特徴がどのような機能をもたらすものであるのかについて、新たな視点を提供することになった。その意味において、今年度の研究実績を通じて、さらにそうした視点に基づく理論を展開させる契機となったといえる。
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