平成30年度においては、アメリカにおける公益信託の受託者が、信認義務、特に忠実義務を履行することを確保するガバナンスに関して研究を行った。 アメリカにおいては、公益信託を含む公益組織については、州の司法長官が、その役員または受託者の義務の履行を監督する権限を与えられているが、一定の範囲の委託者および受給権者や当該公益信託と一定の関連性を有する「特別の利益を有する私人」にも、受託者の義務違反を理由として提訴する原告適格が認められている。そして、この私人による監督の実効性を支えているのが、内国歳入庁法により、共通の書式において定められ知得る受託者の詳細な報告義務であり、またその内容がウェブ上で広く公開される情報開示制度であるといえる。さらに、連邦内国歳入庁による規制税が、公益信託を含む公益組織の監督・ガバナンス、特に受託者の忠実義務違反行為の抑止に対して、大きな役割を果たしていることがみてとれた。 以上の検討により、アメリカにおける公益信託の監督・ガバナンスの最も大きな特徴は、その多角的な牽制制度にあるといえることが看取された。 我が国においても、公益信託について、公益法人制度における重装備の内部牽制・監督制度とは異なったガバナンスを確立するのであれば、信託管理人以外にも多角的な監督・ガバナンス体制を検討する余地があるとの結論に至った。
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