研究課題/領域番号 |
15K03235
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研究機関 | 高知県立大学 |
研究代表者 |
菊池 直人 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (10553513)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生命保険 / 他人の生命の保険契約 / 被保険者 |
研究実績の概要 |
(1)国内議論の整理について 日本におけるモラルハザード防止のための立法措置について、立法・学説上の変遷について検討を行った。明治23年に成立した旧商法典では、生命保険契約についても被保険利益を必要としていたが、同法典は一部のみの施行に留まり、保険に関する規定は見送られることとなった。当時の学説においては、生命保険契約において被保険利益を必要とする論者が多かったが、実務においては、被保険利益の有無に関わらず生命保険契約が締結されていた。このような実情から、明治32年制定の新商法では、親族主義をとり、被保険利益を有するとされる者を一定の範囲に制限したといえる。ただし、親族主義については、他人の生命保険契約における当事者関係を限定してしまうがために実務からの批判が多く、明治44年の改正商法において、同意主義が採用されることとなった。当時の商法改正理由書によれば、被保険者の同意がある場合は、保険契約締結の利益があるものと看做すとあり、証明困難な被保険利益の存在について、同意によってその存在を擬制する目的であったと考えられる。以上の点から、利益主義と同意主義については、今日のように対立的に議論される概念ではなかったことを明らかにした。 (2)フランスにおける立法例の検討 フランスでは、1807年立法当時の学説においては、被保険利益を有することを要件とする説が有力であった。これはモラルハザード防止の趣旨ではあるが、実際の立法においては、同意主義を採ることとなった。ただし、フランスにおいては、第三者のためにする契約においては、契約の相対効原則の例外として判例で認められた経緯があり、そこでは被保険者自身の利益を前提としていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランスでの調査により、一定の必要な資料を入手することができた。外国文献については、今後も継続的に検討する必要があるが、おおむね順調に進展しているといえる。ただし、前年度の課題として、フランスにおける1807年立法時からの判例検討を継続して行う必要があると考える。また、現地研究者へのインタビューを十分行うことができなかったため、今後の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、研究計画に挙げたアジア諸国の検討と併せて、前年度の課題として、フランスにおける1807年立法時からの判例検討を継続して行う必要があると考える。当時の欧米各国での議論は、フランスにおいても無視できない影響があったと考えられる。そのためには、予備的に同時代の欧米諸国の立法検討も行っていきたい。その理解の上で、アジアに輸入された近代保険法の立法検討を行っていく。 また、現在の実務を理解するうえで、各国の約款、申込書等について検討する必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
経費については99%利用することで概ね予定通りの研究を進行できた。今回生じた次年度使用額は、旅費に用いることができる金額ではないため、次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
今回生じた次年度使用額は少額であり、今年度予算と合わせ、適正に利用したいと考えている。
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