研究課題/領域番号 |
15K03237
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石井 夏生利 筑波大学, 図書館情報メディア系, 准教授 (00398976)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | プライバシー / 個人情報 / 情報漏えい / データ侵害通知 / データブローカー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、個人情報の不正取得・漏えいに関する法制度及び運用状況の各国比較を行うことにある。2015年度は、9月にベルギーのEU関係機関と英国ICO(情報コミッショナー事務所)に出向き、情報漏えいの現状、データブローカーの実務、データ侵害通知の執行等についてインタビューを行った。 ベルギーでの調査結果によると、国際データ移転の場面ではアメリカとEUの発想に大きな隔たりがあり、従来の制度の存続が暗礁に乗り上げていることが判明した。他方、データ侵害通知の制度に関してはアメリカを参考にしたこと、大規模な情報漏えいが発生しているのは欧州よりもむしろアメリカであること、データブローカーのマーケットは欧州では発達していないことなどが明らかとなった。法的概念として「データブローカー」は存在せず、あくまで個人情報保護の文脈では「データ管理者」に該当するか否かが重要であるとのことであった。英国ICOでの調査によると、英国でも情報漏えい事件は発生しており、マーケティング目的で個人情報を取引するデータブローカーに対する執行を行っている等の説明があった。悪質な事例では、携帯電話やSIMカードを盗んで10万件の電話をかけた後に廃棄するといった事例があり、そのような場合には刑事法的な対応を行っているということであった。具体的な事例を聞くことができたのは英国であったことから、2016年度以降は英国とアメリカとの比較に重点を置くことを考えている。 研究成果としては、日本語での論文発表2件(研究代表者・研究協力者)、日本語による研究会での報告が1件(研究代表者)、国際会議での研究発表が修正付きで承認された件が1件(ファーストオーサーは研究代表者)ある。最後のものは、国際情報処理連合で発表する予定であり、情報漏えいに関する日米英比較をテーマとしている。会合は2016年9月にマンチェスターで開催される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は英国及びアメリカの調査を継続する予定である。各国の状況はオンラインでの調査及び英国への訪問調査で相当程度明らかになったと考えている。2015年度の訪問調査の際には、EUとアメリカの間に存在する対立と協調という視点の重要性を再認識することができた。加えて、EU関係機関でも調査を行ったことにより、フランスやドイツを含むEU加盟国についても、本テーマに関わる状況を聴取し、下調べを実施した。また、研究成果も初年度から出すことができたことから、特段の遅れは発生せず、概ね順調に進展していると考えている。 フランス・ドイツについては、2015年度の下調べを受けて調査の深掘りを行う必要がある。現地調査の必要性は、国内での調査を進めた上で検討するが、2016年3月のテロの影響により、現地調査を実現できないことが懸念される。その場合は他国を調査対象に含めることも検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も訪問調査、国際会議への参加、文献調査等を行い、最終成果をまとめるべく進める予定である。 フランス、ドイツに関しては、情報漏えいの現状、データブローカー(2015年調査ではマーケットが発展していないとのことではあったが)、EU一般データ保護規則の採択によるデータ侵害通知の実効性を整理した研究成果は、少なくとも国内では発表されていない。2016年度以降の調査を通じて日本との比較を行い、論文発表を行いたいと考えている。日本では、個人情報保護法の改正により、データトレーサビリティの義務や個人情報データベース提供罪などが導入された。比較の際には、これらの制度の実効性も勘案しつつ検討を行う。 他方、今後の研究を進める上での懸念事項としては、2016年3月にブリュッセルで発生したテロにより、欧州調査への支障が生じる可能性がある。上記の通り、2015年度にはドイツ、フランスの下調べを兼ねてEU関係機関での調査を行った。しかし、ドイツ、フランスの本格調査を行うためには両国にも出向く可能性があることから、外的な要因で訪問調査が叶わず、十分な成果を得られないことが心配される。その場合は、プライバシーへの取組みで最近注目を集めている他の国(カナダ等)を調査対象に加えることを視野に入れている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、英国及びアメリカにおいて、個人情報の不正取得・漏えい事故の状況等のインタビュー調査を実施する予定であったが、アメリカについては、プライバシー保護をめぐるEUとの折衝が注目を集めている。このことから、英国調査の際にEU諸機関でのインタビュー調査を行うことで、アメリカとの対立状況を把握するとともに、今後予定しているフランスやドイツでのインタビュー調査の礎とすることができると考えた。 EU諸機関は複数存在しているため、英国の調査とあわせると、インタビューの準備や結果の整理等を行う際の研究協力者が2名必要となった。そのため、前倒し支払請求を行ったが、当初予定していた旅費が安くなったことにより、未使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
2015年度は、2名の研究協力者のサポートを得ることで、英国のみならずEUの諸機関への訪問調査を行うことができ、多くの成果を得た。2016年度は、英国及びアメリカの状況を比較した論文を国際会議で発表するための費用、フランスやドイツへの訪問調査(を行った場合に)にかかる費用、テープ起こし代、その他必要な書籍代等を購入する予定である。フランス及びドイツについては、2015年度の事前調査の結果を生かしつつ、追加調査を行う予定である。他方、テロの影響で訪問が叶わない場合は、調査対象国の変更もあり得る。
|