平成29年度は研究期間の最終年度として、まずは平成27年度・平成28年度に行った分析検討を補充する個別研究を行った。具体的には、出願時同効材と均等論について平成29年3月に下された最高裁判決(最判平成29年3月24日民集71巻3号359頁[マキサカルシトール])について、控訴審である知財高判平成28年3月25日判時2306号87頁(この大合議判決の分析は平成28年度に行っており、成果公表済みである)と対比しつつ、その判旨を検討した。その結果、あえて大合議判決の判示内容との差異を強調するのであれば、出願同効材に対して均等論適用が排斥される例外的ケースの範囲が異なっている(論文公表ケースに対する均等論排斥を明言していない)ことを指摘することができる旨を明らかにし、判例評釈にて成果を公表した。また、無効の抗弁に関連して、訂正の再抗弁における訂正請求・訂正審判請求の要否について考察し、訂正請求等を要しない例外的なケースを過度に限定する必要はない旨を論じた判例評釈を公表した。さらに、延長特許権の効力範囲の制限(特許法68条の2)についても検討し、これも判例評釈の形で成果を発表している。 研究期間全体を通して行ってきた、クレームの「限定解釈」、審査経過禁反言の法理(出願時同効材に対する均等論の排斥)、無効の抗弁、消尽理論、差止請求権の制限など特許権行使の制限法理の網羅的な研究を総括し、それらの理論的根拠と判断枠組みを明らかにすることができた。
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