研究課題/領域番号 |
15K03242
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
丸山 英二 神戸大学, 法学研究科, 教授 (10030636)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 個人情報保護法 / コモン・ルール / インフォームド・コンセント / 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 / broad consent / 要配慮個人情報 / 個人識別符号 |
研究実績の概要 |
2016(平成28)年度は,①2015年9月公表の米国コモン・ルール改訂案に照らして2017年1月19日公表の同最終規則の内容を把握することと,②2015年9月の個人情報保護法改正を踏まえた「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(以下,人指針)などの見直しの経緯と2017年2月28日に告示された指針の内容について検討することに注力した。 ①に関しては,2015年の改訂案で提示されていた多岐にわたる改訂のうち,(a)匿名人体試料を対象とする研究について,コモン・ルールの適用を定めるとともに,研究実施に対する本人の同意(broad consentでも可)の取得を義務づける規定,(b)臨床試験について直接連邦の補助を受けていない場合でもコモン・ルールの適用を及ぼす規定,(c)識別可能情報・試料に対する保護基準の創設,などが最終規則では落された。他方,(d)新たな説明事項の規定,(e)識別可能情報・試料の保存・管理・二次的研究利用に対するbroad consentの許容,(f)多施設共同研究における単一IRBの利用の義務づけ,(f)迅速審査を受けた研究や解析・追跡段階に入った研究に関するIRB継続審査の免除,などは最終規則でも残された。 ②に関しては,指針改訂に当たる「医学研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議」の議論の推移を把握するとともに,その適否について検討した。2015年の個人情報保護法改正では,個人識別符号や要配慮個人情報の概念の導入,個人情報の他への提供に関して記録の作成・保管の義務づけ,外国への情報提供の場合の要件などについて規定が設けられた。これを踏まえた指針の見直しがなされたが,指針のインフォームド・コンセントの要件などとの関係についての整理が十分なされないまま改訂が急がれたため,不整合が残る結果となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.米国のコモン・ルール改訂の動きについて,最終規則の告示は改訂案の公表の数年後と予想されていたところ,大統領選の結果を受けた政権交替を睨んで,短期間で公表されたため,その内容を検討することができ,また,その中には興味深い動きも含まれており,有益であった。 2.個人情報保護法の改訂を踏まえた研究倫理指針の見直しについては,「医学研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議」において錯綜した動きが見られ困惑したが,2017年2月に人指針の成案・ガイダンスがようやく公表され,また,事務局担当者による説明会に繰り返し参加することによって,改訂内容に関して相応の理解を得ることができた。これに基づいて,人指針に関する説明会や講演などにおいて解説を行うとともに,依頼されて,改訂の概要を解説し,あわせて,若干の問題点を指摘する小稿を書くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.個人情報保護法の改訂を踏まえた研究倫理指針の見直しについて,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」については一応の理解・検討をすることができたが,「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」についての検討は,事務局によるQ&Aの公表が遅れたこともあり,あまり進んでいない。今後はゲノム指針についての検討も進め,今回の改訂に総合的な評価を加えていきたい。 2.アメリカのコモン・ルール改訂作業の経緯について論考をまとめる作業を進める。2015年の提案規則の公表においては,骨太の基本原理を確認した上で,その原理に基づいて個別の問題に対する対応を,パブコメの意見を取り入れながら,まとめ上げるという,従来の手法がとられていたが,最終規則の公表は,政権交替もあって,見切り発車が急がれたという印象を拭うことができない。しかし,それも現実であるので,その内容について精査し,検討する作業を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年3月下旬に宮崎市で開催された第87回日本衛生学会学術総会に参加の予定であったが,他の予定との調整ができなかったため,参加できず,その予算分の残額が生じた。今年度も,引き続き,医学界における研究倫理の実施状況の把握に努め,この欠落を埋めていきたい。
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次年度使用額の使用計画 |
医学界における研究倫理のガバナンス状況の把握は,本研究の重要な要素であると位置づけているので,最終年度においても,その把握・検討を進めるため,残余が出た金額を活用したい。
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備考 |
研究代表者が行った学会報告,講演,講義などで用いたパワーポイントファイルをPDF化したものを公表している。
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