研究課題/領域番号 |
15K03246
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
千葉 華月 北海学園大学, 法学部, 教授 (90448829)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 北欧 / スウェーデン / 生殖補助医療 / 人工授精 / 体外受精 / 出自を知る権利 / 同性婚 / 代理懐胎 |
研究実績の概要 |
生殖補助医療や遺伝子診断技術の発展と普及に伴い、国内外において生殖補助医療や遺伝子診断技術への規制と親子関係をめぐる規律のあり方が議論されている。生殖補助医療技術の安全性の確保はもちろん、生殖補助医療は子に複雑な親子関係をもたらす場合もあるため、子の福祉と安定した養育を確保するために有益な制度を構築することが必要である。 1978年にイギリスで世界初の体外受精児が誕生して以降、欧州諸国では、生殖補助医療の事例や規制についての議論が積み重ねられてきた。 北欧諸国では、1980年代から生殖補助医療への規制が行われた。北欧の中でもスウェーデンは1947年に親子法改正のための政府報告書で人工授精が法的観点から問題とされ、翌年に政府調査委員会が設置されている。その後の非配偶者間人工授精子の父性確定のための判決(NJA1983s320)が1つの契機となり、1984年に人工授精に関する法律が成立した。同法は、非配偶者間人工授精について世界で初めて規制し、子にいわゆる出自を知る権利を認めた。地方自治体は、子が遺伝上の親を知るための支援を行う義務を負う。1988年には、体外受精に関する法律が成立した。2006年に2つの法を取り込む形で遺伝的な一体性等に関する法律が成立している。同法では、生殖補助医療の実施要件が厳格に定められ、医療安全と子の福祉の確保が必要とされる。特に非配偶者間での生殖補助医療では、医師の特別の事前審査が必要である。 その後もスウェーデンでは、生殖補助医療技術の発展や社会状況に応じて法改正や委員会での議論が行われてきた。現行法では、異性の法律婚のカップル、サンボ(同居婚)カップルのほか、レズビアンカップル(2005年改正)や単身女性(2016年改正)にも、生殖補助医療を受けることが認められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、これまでの研究成果をもとに、北欧の生殖補助医療への法規制と親子関係の規律に関する文献の収集、整理、精読し比較検討した。特にスウェーデンについては、2016年の法改正に向けた検討委員会報告書等を整理し、その議論を検討した。また生殖補助医療をめぐる最新の判例を調査した。 今年度は、上記文献による調査のほか、スウェーデンで、大学の家族法研究者、医事法研究者、国際法研究者、社会福祉庁の実務家への実態調査を行った。2016年改正法とその問題点について、実際に現行法がどのように運用されているのか、出自を知る権利、生殖補助医療をめぐる判例、親子関係をめぐる規律のあり方、監護権に関する学説の議論等についてインタビューした。 以上のとおり、今年度は文献に基づく研究および実態調査を行うことによりおおむね順調に研究を遂行することができた。研究成果は、平成30年度に公表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き、北欧の生殖補助医療への規制と親子関係の成立に関する文献や判例を整理し、精読する。北欧での実態調査を行う予定である。 北欧において、平等性の確保のために生殖補助医療の対象範囲が拡大する中で、子の福祉と安定した養育を確保するための制度を考察する必要がある。地方自治体等の家族への関与、支援がますます大きな役割を担うのではないかと考える。 スウェーデンでは、現在、遺伝的な一体性等に関する法律のさらなる改正に向けた議論が進んでいる。大きな論点は、①胚の提供と②代理懐胎を認めるか否かである。最終年度は、平成29年度までの研究に加えて、法改正に向けた議論についても明らかにしたい。胚の提供が認められれば、胚提供による生殖補助医療で生まれた子は原則として(両)親と遺伝上のつながりがない。代理懐胎が認められた場合には、単身男性、男性同士のカップルに生殖補助医療を受けることを認めるかが議論になるだろう。いわゆる出自を知る権利についてもあらためて議論されるのではないかと思う。 平成30年度は、これまでの文献に基づく研究および実態調査で得られた知見をもとに研究成果をまとめ公表する予定である。最終的には、北欧法による知見をもとに日本の生殖補助医療への法規制の是非、規制内容、親子関係の規律のあり方について考察し提言を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に実施予定であった北欧での実態調査を平成30年度に行うため、次年度使用額が生じた。 平成30年度は実態調査を行う計画ではなかったため、今年度の実態調査は、次年度使用額を使用する予定である。
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