本研究は、著作権の侵害成立要件である著作物の類似性の判断のあり方について、比較法や他の知的財産法の議論を参照しつつ、総合的な検討を行うことを目的とする。 令和元年度も、昨年度に引き続き、比較法研究として、ドイツ法、アメリカ法の裁判例・文献の調査を行った。その結果、パロディの取り扱いは各国で大きく異なるものの、通常の類似性判断においては、概ね共通の判断枠組みが用いられていることが明らかとなった。 また、近時、実用品のデザインの著作物性を認める裁判例が登場し、学説でも応用美術一般を著作権法により保護すべきという見解が有力になっていることを踏まえ、本年度は、応用美術の著作物性と類似性の検討を行った。その際、応用美術は、意匠法の保護対象となるものであることから、意匠の類否判断の基準と手法について改めて検討を行った。その結果、裁判例における意匠の類否判断と応用美術の著作物の類否判断は近似しており、いずれも、客体の特徴的部分の共通性と客体全体が奏する美感の共通性に着目して類否判断が行われていることが明らかとなった。意匠も著作物も、需要者ないし表現の受け手にその創作性が認知・感得されることで価値を発揮するという点で共通の性格を有しており、そのことが両者の類否判断の構造に一定の共通性をもたらしているといえる。以上の研究成果を踏まえて、令和元年度の前期に予定されていた学会シンポジウム(「意匠法改正の検討」)にて司会者の立場から報告を行い、そのフィードバックを得て、意匠の類否判断に関する研究成果を論文にまとめた。応用美術の著作物性・類似性についても、論文にまとめ、公表する予定である。
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