研究実績の概要 |
本研究の対象は,先天性稀少疾患の早期発見・早期治療を目指す公衆衛生分野のプログラムである新生児スクリーニング(以下「NBS」と記す)である.新たな検査技術導入により近年日本でもその対象疾患が急増したが,本研究では従来十分検証されてこなかった拡大「NBS」をめぐる法的・倫理的課題を探ることとした. 拡大「NBS」の問題群の分析は,医療の発展のための遺伝学的情報の利活用とプライバシーの尊重との相克,真の患者の視点とは何か,などという医療と法のあり方そのものにかかわる,広がりのあるテーマである.本研究では,単なる海外の制度や実態の紹介を超え,近年日本でも拡大された「NBS」という現実の政策における課題の掘り起こしを含め政策提言を行うことを目指すと同時に,それらの分析を通じ医療と法(医事法)の在り方を再検討することによって,公衆衛生の視点を重視し,人々の健康や医療に関わる問題の総合的な分析(統合的なヘルス・ロー(健康をめぐる法学))の視覚をも検討対象する点に,本計画の特色がある. 具体的な分析対象は,(1)拡大「NBS」の効果と問題点,(2)「NBS」残余血液サンプルの目的外利用の是非,(3)「NBS」の対象拡大をめぐる政策決定プロセスと患者支援の在り方,の3つである.文献調査と国内外の専門家へのインタビューなどを織り交ぜて検討を行い,日本での政策変更に伴い近い将来直面しうる課題と弊害を洗い出し,解決策の提言をも目指す研究である.研究期間を通じ,文献研究を中心として,上記3点の最新の議論状況の確認を行ってきた.特に合衆国における制度挿入の歴史などについても検討し論文を執筆を行った.また制度の担当部局に対するアンケート調査なども行い国際学会などでの報告も行った.すでに論文を公表したが,引き続きさらに公表作業に取り組んでいきたい.
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