研究課題/領域番号 |
15K03258
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研究機関 | 広島経済大学 |
研究代表者 |
宮畑 加奈子 広島経済大学, 経済学部, 教授 (20441503)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有形文化資産 / 台湾 / 文化資産保存法 / 歴史建築 / 古蹟 / 公共利益 / 容積移転 / 植民地遺産 |
研究実績の概要 |
本年度は、台湾文化資産保存法制定に至るまでの経緯、植民地遺産としての建築物に対する社会的意識の変容などのこれまでの成果を基に、2016年7月に再度全面改正が行われた文化資産保存法の意義、従来から指摘していた「公共利益」の優位性について、法文化の視点から考察を行った。その成果については、2016年秋の日本法政学会において、「台湾文化資産にみる財産権と公共利益の交錯」という題目で報告を行い、歴史性および政治性を多分に含んだ存在としての不動産を対象とする台湾の有形文化資産につき、法文化の側面を勘案しながら考察することを試みた。報告では、まず2016年の全面改正に至るまでの「文化資産保存法」の史的経緯を概観した上で、複合的な側面を有する社会資本としての文化資産の「公共利益」の問題に言及し、初年度に検証した「公共利益の優位性」につき再度考察を行った。続いて、文化資産の所有者と行政機関との間の衝突を克服する手段として1997年に導入された容積移転制度において、「規制」手段である「容積率」が実質的に「容積権」として機能している点、またその間の経緯には、近年顕在化しつつある文化資産保存と都市計画、すなわち対立する公益対公益との間での「公共利益」のあり方が反映されている点を検証した。 今年度の着目点は、文化資産の指定・登録に対する損失補償の手段として導入された容積移転制度の考察に集約されるため、実地調査の主要な対象も、台北市大稲(土へんに呈)地区の容積移転制度を用いた文化資産の活用事例を中心として行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
台北市の容積移転事例についての考察を介して、単体の建築物である有形文化資産と都市計画の相克という最終年度に向けた新たな課題を見出すことができた点、また学会報告を通じて得られた有益な助言により理論的深化に向けた修正を行うことができた点では、初年度に行った考察をさらに深めることができたと思われる。ただ一方で、報告内容をまとめた論文については現在学会誌の査読中であり、研究成果を公表するまでには至っていないため、この点を理由として、上記区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
台湾文化資産保存法の制定に至るまでの法制度の沿革、法制化後の文化資産概念の変容過程とその過程で生じた問題点、台湾文化資産法制における「公共利益」の優位性を指摘した初年度の成果を基礎としながら、今年度は「公共利益」をめぐる解釈のより具体的な議論状況を検証した。 今後の課題としては、2017年7月に本課題の中心的なテーマである文化資産保存法が全面改正された後、文化資産の対象の拡充と具体化が進み、市民参加の機制や原住民文化資産保存が強化される等、従来の文化資産保存制度を大幅に進展させる内容となっている点を踏まえ、法改正後の効果につき分析を行うことがまず挙げられよう。また文化資産の維持保存の推進手段として導入された容積移転制度についても、引き続きその動向を検証し法文化的側面も含めて問題点を析出するものとしたい。 また2017年5月には、日本台湾学会において本課題に関連する分科会(分科会「台湾の『日式建築』の現在~その意義と機能」)を企画しており、文化人類学、建築学、社会学等の学際的な知見の交錯を介して、台湾文化資産に対する新たな知見を見出しうることが大いに期待される。ここで得られた知見を加味しながら、三年間の総括となる論文を執筆する予定である。 台湾の建築(有形)文化資産は、次第に台湾の都市再生の大きなキーワードともなりつつある。当初の予想を超えた大きなスケールで変革が進展しつつある現状につき、引き続き歴史的な観点から考察を試みたい。
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