台湾では、文化資産保存法の一連の改正過程にみられるように、多元文化の尊重による文化アイデンティティの拡張により、有形文化資産(本課題では主として建築物)の「歴史的価値」という概念が創出され、その対象が急速に拡大するとともに、財産権の損失補償等、文化資産の経済的側面に着目した施策が採用されている。文化資産の「公共利益」を主眼においた台湾の取組みは、建築物の有する私的財産権としての側面や他の「公共利益」との間で様々な相克を生じながら進展してきたが、2016年の改正により新たに指向された、多元性、経済性、民主制に加え、都市計画、文化教育、環境との調和を打ち出した方向性には、多くの示唆が含まれている。
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