政治学・行政学分野の日欧比較研究はこれまで、「福祉国家」や「政党政治」の分野に焦点を当ててきたが、日本において「過疎問題」がいよいよ深刻化し、現実政治のレベルでも「地方創生」がテーマとなるなど、2000年以降は、地方都市や中山間地域の持続可能性をどう作りだすかが関心を集めてきた。 本研究は、上記の社会的要請に応えるべく、当該分野の比較研究に、「過疎地域における生活をめぐるガバナンス」という新たなテーマを加えるものである。 ドイツやオーストリアでは、近年、再生可能エネルギー生産や有機農業、林業などを通じて地域の持続可能性を高めることに成功した自治体が多数生まれつつある。そうした自治体は、人口が数百~数千人単位の比較的「小さな自治体」が多数を占め、農山村地域の基礎自治体として、雇用、交通、教育、福祉、医療、各種インフラなど住民生活を支えるガバナンスを提供し、人口の維持と地域の持続性の確保に成功している。こうした事例は、「先進諸国における農山村地域においてその持続性をいかに確保するのか」、という点で同じ課題を抱える日本に対し、多くの示唆を与えるものである。 本研究では、日本における過去40年にわたる「過疎問題」のレビューを通じて、現代における「地域の持続性」に関する論点を明らかにしたと同時に、福島や熊本等国内はもちろん、ドイツ・バイエルン州グロースバールドルフ、オーストリア・フォーアアールベルク州ズルツベルクでのフィールドワークを実施するなど、現地調査に重点を置き、「交通」や「教育」という分野ごとのガバナンス比較に取り組んだ。 研究で明らかとなったのは、①合意形成を志向する自治体運営パターン、②住民の民主的な地域運営の仕組み、③自治体間協同、④再エネや有機農業等、農業や農山村地域を基盤とする新産業創出⑤上記政策パッケージを可能にするナショナルレベルの政治環境、等の重要性であった。
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