研究課題/領域番号 |
15K03265
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川出 良枝 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (10265481)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 政治思想史 / ヒューム / スタール / モンテスキュー / コンスタン / ヴォルテール |
研究実績の概要 |
平成28年度は前年度において構築した申請課題と密接に関わる領域の研究者(Mark Goldie, Michael Sonenscher, John Dunn, John Robertson, Celine Spector, Lucien Jaumeなど)とのネットワークを継続的に活かし、面会、あるいはメールや草稿を交換することを通して、研究の方向性を確認することができた。とりわけ、Goldie教授と議論することを通して、17~18世紀ブリテンにおける党派対立の変容過程について重要な示唆を得た。最終的に成果をまとめる前段階として、党派対立に関して短文を執筆した(「党派対立とデモクラシー」)。 ヒュームの党派論、聖職者論、イングランド史論を精読し、Harris氏や壽里竜氏の最新のヒューム論等を参考にしつつ、上述の党派対立論との関連で研究を進めた。 また、ファナティシズムと対決した重要な思想家であるスタール夫人について、Biancamaria Fontana氏と工藤庸子氏があいついで単著を刊行。ローザンヌ大学に所属するFontana氏とはメールを通して議論し、工藤氏の著作についてはフランス政治思想研究会の場で合評会が催され、そこで合評者の一人として報告(2017年1月20日)。本科研費の成果として今後刊行予定の単著にとって、きわめて重要な研究であり、二つの研究成果をもとに、それをより発展させるための研究計画を再構築した。スタール夫人の『革命を収束させうる現下の情勢』の重要性を確認すると同時に、コンスタンの総裁政府期の時局的論文その他の重要性が判明し、コンスタン研究を開始した。フランス革命におけるテロルについての解釈の多様性を追跡し、フランス革命をめぐる諸思想を可能な限り網羅的に調査する作業をおこない、スタール夫人とコンスタンの歴史的位置づけを確定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内外のヒューム研究者とさまざまな形で意見交換し、貴重な情報をご提供いただくとともに、研究代表者のアイデアについて忌憚のない意見を頂戴することが出来た。近代思想研究会での報告、日本政治学会など学会への参加、また、新たにイギリス史分野での科研プロジェクトのメンバーとの交流がはじまるなど、順調かつ発展的に研究を遂行することが出来た。 また、スタール夫人について、重厚な研究があいついで刊行され、大いに裨益された。同時に、研究の蓄積を目の当たりにし、自分の研究の方向性を当初考えていたレベルよりもさらに発展的なものとするため、当初の計画を微修正する必要に迫られたことも事実である。優れた研究を共通の資産として受け継ぎながら、そこにさらにオリジナルな成果を加えるためのアイデアの練り直し作業をおこなった。そのため、平成28年度の後半は、工藤氏の単著の合評会をはじめ、さまざまな研究会に積極的に参加し、自分のアイデアを政治思想研究者のみならず、文学研究者や歴史家に披露し、批判をあおぐことができたのも研究を進捗させるために、きわめて重要な機会となった。 平成28年度において、最も力を注いだのは、平成29年度中の刊行を予定する英語による論文集のためのブリテンの党派争いに関する論考の執筆であり、すでに出版社に提出済みである。また、モンテスキューについての英語論文を執筆し、近々雑誌に投稿する予定である。 また、当初の予定通りルソーの市民宗教論について考察を深めたが、その過程で、ヴォルテールとルソーの寛容論の比較考察を行い、両者の議論を相対化する視点を得た。ルソーの見直しは、ルソーを愛読したスタールとの関連で示唆的であった。 以上のように、当初の計画を元にさらに一層の発展を実現するために新たな視点を獲得するなど、概ね順調に計画が進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度および平成28年度の成果を元に、それぞれのテーマを微修正しながらも、さらに積極的に発展させることで研究を推進する。ヒュームに関しては党派の問題に集中して研究を進め、その他の問題が十分考察できなかったという反省がある。今後はその宗教論を本格的にとりあげる。その過程で、18世紀における宗教批判について、ヴォルテールとルソーの比較対象という作業をさらに発展させる。その際、自然宗教あるいは理神論と呼ばれるキリスト教の立場について特に唯物論との関係で考察を深める必要がある。特に、ミラボーやフィジオクラットのような経済理論家の宗教観を確定し、これまでの文学・哲学に土台を据えた「啓蒙」像の見直しを試みたい。 スタール夫人を中心にしてテロル後の情念論を考察するというのが当初の計画であったが、コンスタントとの思想的関係について正面から取り組む必要があることが判明した。コンスタンの本格的研究は、今回の計画をいたずらに拡散させるリスクが大きいため、抑制的におこなう予定であるものの、スタール夫人の独自性を確定するためにコンスタント比較する作業は必要不可欠であろう。 以上のような方針で研究を推進するため、引き続き資料調査、研究会開催をおこなう。フランスへの調査旅行も計画している。特に、フランス国立文書館においてミラボーの手稿を調査する必要がある。基礎的作業と並行し、引き続き論文を執筆・刊行し、最終的な目標である単著の刊行のための執筆にも本格的にとりくみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料収集のために発注していた図書が日本への入荷の遅れのため未使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は平成29年度における図書購入の代金に充当する。また、蓄積した資料の整理等のためにバイトの雇用を計画し、そこにも充当する予定である。
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