最終年度である平成29年度においては、前年度までの研究をふまえてあらためて、政治と情念との関係について、より広い位相で考察を深めた。とりわけ、ヒュームの政治思想の重要性を中心的に探究した。その際の新発見として、彼の政治論のフランス語訳といわゆるグルネ・サークルという重要な学派との密接な影響関係を解明することができた。 また、計画段階では、もっぱらスタールの熱狂に対する対応という課題の解明を重視していたが、彼女と行動をともにしたコンスタンの手による『政治の原理』の重要性にも着眼することができ、特に29年度の前半期には、その分析に注力した。経済的利害関心は暴力的情念をつねに制約する穏和な情念であり続けるか、という問題は革命をどう収束させるかという問題と密接に関連することが判明したのは大きな収穫であった。 あわせて、ジョナサン・イスラエルの「急進的啓蒙」対「穏健な啓蒙」という二分法を軸とした啓蒙研究の成果を批判的に考察する作業も行った。イスラエルの仕事には、特にその方法論の側面で疑問がないとはいえないが、そこからピエール・ベールの重要性を学ぶことができたのが大きな収穫であった。それをふまえて、宗教的な熱狂に対する対処として、むしろ世俗の君主の絶対権力に期待するという論理について考察を深めた。あわせて、ナショナリズムや愛国心がもたらす世俗的な熱狂についても調査した。 前年度までの研究成果をくみこみ、穏健・節度(moderation)という鍵概念を導きの糸として、熱狂(ファナティシズム)の克服のための条件を探るという研究全体を総括することができた。その成果の1部は学会報告や論文の形で発表した。
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