研究課題/領域番号 |
15K03267
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿毛 利枝子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10362807)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 比較政治 / 司法政治 / 裁判員制度 / 陪審制 / 参審制 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度までに行った作業をベースに、わが国を含めた先進各国の刑事裁判に対する国民参加制度の規定要因を絞り込む作業を行った。わが国と他の先進諸国における参加制度は、どのような要因によって形成されており、どこまでが共通の要因に、またどこまでが固有の条件によって左右されてきたのか。分析に際しては、とりわけ、わが国と同時期に参加制度の導入を検討した韓国・台湾との比較を重視したが、1990年代に陪審制を新たに導入したスペインとの比較も取り入れた。この作業においては、量的分析を行う可能性も検討したものの、事例が4カ国(日本、台湾、韓国、スペイン)と少数であるため、量的分析にはなじまず、事例(質的)分析を中心的に用いることとなった。アプローチとしては、主として社会的アプローチ、行政的アプローチ、政治的アプローチの三つを中心に検証作業を行った。その結果、これまでのところ、政党政治が陪審制・参審制の制度設計に及ぼすインパクトの重要性が浮上している。 この作業は文献研究が中心となった。早め早めに国内外の研究会や学会にて成果の報告を行い、意見交換を図るとともに、フィードバックを得ながら、柔軟に軌道修正を行うことに努めた。とりわけ、本研究は国際比較研究であるので、関連国の専門家の助言を早めに得る機会を意識的に作ることで、研究の確実性を高めようとした。そのためには、国内のみならず、海外の学会で、しかも政治学(American Political Science Association、アメリカ・サンフランシスコ開催)だけでなく、法社会学分野の学会(Asian Law and Society Association、台湾・新竹開催)での報告の機会を積極的に作った。とりわけ後者では、アジア地域の刑事司法制度の専門家と突っ込んだ意見交換を行うことができ、今後の研究の進展の上で大変有意義であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまでの研究の成果を単著としてまとめることができ、その意味では成果を形にすることができた。日本における裁判員制度の制度設計を、台湾・韓国・スペインと比較したものである。単著の公刊は当初の想定よりも早く、その意味では本研究は当初の予定以上に順調に進展しているともいえる。もっとも、単著のとりまとめに時間をとられたため、当初の予定通りに進んでいない部分もないわけではない。たとえば、単著の中では、日本を比較的最近陪審制・参審制の導入を検討した国々、つまり台湾・韓国・スペインと比較することが中心となったため、もう少し歴史的な事例、たとえばイギリス・フランス・ドイツなど、いわゆる陪審制・参審制の先進国ともいえる事例との比較分析をもう少し進める必要がある。日本における裁判員制度の導入過程の特徴を捉える上では、これらのより歴史的な事例と比較することも重要なことであり、この作業については、来年度より突っ込んだ考察を行うこととしたい。
また、研究を進めるとともに、そもそも日本において裁判員制度を導入したことで、どのようなインパクトがあったのかをよりより体系的に考察する必要性が明らかになってきている。裁判員制度の導入によって、判決や刑事手続にはどのような影響が出ているのか、いないのか。裁判員を務めた市民の意識にはどのような影響があったのか、なかったのか。これら実際に生じている影響は、当初の制度設計者の意図とどの程度符合するものなのか。これらの点を検討することは、そもそもの制度設計の過程を検討する上でも重要な意味をもつことから、引き続き、平成30年度も検討を行うこととしたい。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度より積み残した作業として、日本における裁判員制度の導入過程を、これまでに行った台湾・韓国・スペインとの比較からさらに広げて、イギリスやアメリカ、ドイツ、フランスなど、陪審・参審制度の先進国といわれる国々において刑事裁判の参加制度が導入された過程との比較を行う。この作業は、主として文献研究が中心となる見込みであるが、平成29年度の終わりにイギリスで少し現地調査を行うことができたため、この成果も活かして分析を行いたい。可能であれば、アメリカにおいてもう少し現地調査を行いたい。
また、前年度までの研究から浮上した課題として、日本の裁判員制度が導入後に及ぼしたインパクトの検討も行う予定である。裁判員制度の導入によって、判決や刑事手続にはどのような影響が出ているのか、いないのか。裁判員を務めた市民の意識にはどのような影響があったのか、なかったのか。裁判員制度が実際に影響を及ぼしている点、いない点は、当初の制度設計者の意図とどの程度符合するものなのか。これらの点を検討することは、そもそもの制度設計の過程を検討する上でも重要な意味をもつ。この作業においては、最高裁判所の公表している統計資料の検討が中心となる見込みであり、計量分析が中心となる見込みである。
いずれの作業についても、可能な限り、進行中の研究の成果を、国内外の学会や研究会などで積極的に公表し、フィードバックを得ることで、仮説の精緻化を進め、また必要に応じて柔軟に修正を行いたい。
|