研究課題/領域番号 |
15K03269
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
若松 邦弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90302835)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 政治学 / 政治史 / イギリス政治 |
研究実績の概要 |
本課題は、イギリスにおける政治的「疎外」の構造を明らかにすべく、2000年代以降に地方選で一定の支持を得た小政党を軸に、政党システムならびに有権者との関係の変容を検討することで、ローカルレベルでの政党支持の変容を特徴づけるものである。2000年代半ば以降の各種選挙(下院選挙、地方議会選挙など)で小政党の得票が注目された地域の選挙区を対象に、過去の事象の遡及的な検討と、近年実施の選挙に関連する事象の検討とを並行させる形で分析を進めている。 本年度は当初の予定通り、2013年と2014年の地方議会選挙で連合王国独立党UKIPの伸長が顕著であったイングランドの中部、東部、ロンドン東郊を対象に、選挙区のマクロデータ(社会統計と選挙資料)による外形把握と、ローカルの資料(モノグラフ、地域史、コミュニティ資料、新聞)を検討し、自治体選挙に見られる政党間競争の変化を分析した。この作業により、上記地域では、UKIPへの投票が以前からの保守党支持層に加えて、とくに中部以北で新たに労働党支持層からも生じていることが確認された。 このようにイギリスの政党支持における流動化は新たな展開を見せており、地域によっては左派政党にも影響を与える方向で顕著になっていることが判明した。これは、既存の政治勢力に対する不信として生じている政治的「疎外」が依然として深刻であること、すなわち、単に政権批判との性格だけではなく、国政での野党(労働党)も有権者の受け皿となりえておらず、主要政党はその取り組みにもかかわらず、いずれも構造の変化に対応できていないことを示す。 また本年度は、5月に実施された各種選挙の結果を踏まえ、次年度以降の分析につなげるべく、選挙区のマクロデータの収集をイギリス国内の広い地域を対象に行った。その過程で現地では、ロンドン、ブリストル、グラスゴーを拠点に資料収集を行った(7月、9月、3月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年次に検討を予定していた地域については、当初の計画通り、政党支持流動化の分析を進めることができた。 なお、その過程で一部の自治体について、本年度注目した以外の政党の活動を分析する必要性が新たに認識された。次年度以降の対象に加えて検討を進める。 また2015年5月の選挙で、スコットランドでは一般に予測されていた以上に政党支持の変化が進んでいることが示唆され、またイングランド南西部でも2000年代半ば以降落ち着いていた政党支持に再び流動化の要素が見え始めたことから、これらについて検討対象に含めうることが考えられるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
従前の計画通り、小政党の得票の伸びが顕著である地方議会選挙とその選挙区の状況のについて分析を継続する。第二年度の作業では、2016年5月実施の地方議会選挙の結果を過年度の同種選挙と対照させる形で分析する。 また検討対象には、本課題の着手後に注目すべき事象が生じた自治体が含まれる。これについては当初、第一年度の検討対象に近隣する地区を想定していたが、上述のとおり、政党支持の変化が他地域でも急速に広がっていることため、とくにスコットランドの自治体を検討対象に加える。同地域は従来の主要政党からの支持流失がとりわけ顕著であり、今後順次利用可能となる2016年の地域議会選挙、2017年の地方議会選挙のデータを用い分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は資料購入(物品費)について、使途に柔軟性のある別資金(学内研究費)を多めに使用することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
それぞれの費目にそって28年度の資金として充当、使用する。
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