研究課題/領域番号 |
15K03270
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷口 尚子 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科(日吉), 准教授 (50307203)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 選挙公約 / 選挙制度改革 / 時系列分析 / 国際比較分析 / 排外意識 |
研究実績の概要 |
前年度の研究計画で示した通り、平成29年度はまず、日本の国政政党の選挙公約データの収集を終え、分析を重ねて内外の学会やシンポジウム、カンファレンスで発表した。日本の主要政党の選挙公約の有り様に影響する要因は複数あり得るが、比較政治学的にも関心が高い「選挙制度改革の効果」の検証に焦点を絞った。国政における選挙制度改革すなわち中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への移行は、(1)政党の政策位置及び(2)政党の政策内容に影響したと考えられる。(1)については、大政党は小選挙区制において多くの議席を獲得することを目指す故に、Downs(1957)等が議論したように「中位投票者」の政策選好に合わせて政策を穏健化させると考えられる。他方でCox (1990, 1997) やAdams, Merrill and Geofman (2005)は定数が多いことまた比例代表制において政党の政策は極端化することを実証した。したがって、小選挙区で政権獲得を目指す大政党は政策が中央収斂化する一方、比例代表制で生き残りを目指す小政党は特徴のある政策をアピールすると考えられ、並立制の導入が政党サイズによって異なる影響を与えたと推測することができる(Calvo and Hellwig2011;Adams2012) 。我々も日本の政党の選挙公約データでこのことを実証し、国際カンファレンス等で発表した。(2)については、政治体制・経済環境・社会構造といったマクロ的変動による影響をコントロールしても、選挙制度改革後は個別的な政策主張(特定集団や地域に対する利益誘導等)が減り、全体的・包括的利益に関わる政策手法(国防、福祉、環境等)が増える傾向にあることを明らかにした。さらに、日本の選挙公約データを入れ込んで国際比較分析を行い、近年各地で注目される移民等に対する排外意識を起こす要因を探った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
選挙公約データを整備したことで、国内政治の時系列分析や国際比較分析等への応用を進めることができた。上記で説明した日本における選挙制度改革が異なるサイズの政党に異なる影響を与えたという研究は、ほぼ同時期にCatalinac(2017, APSR)が候補者の選挙公報データに基づいて発表しているが、本研究はより包括的に他の要因を統制しつつ、政党の選挙公約データでも確認した。また、わが国の選挙公約データを更新して、様々なタイプの国際比較分析も行えるようになった。近年では移民等に対する排外意識の高まりが注目されているが、各国によって排外意識の規定要因は異なっていることを検証した。日本では外国人居住者は少ないものの、「外国人に近所に住んで欲しくない」という意識は先進国でも高い方である。その背景に「自分の平穏な生活環境を守りたい」という意識があることを、政治的ムード(選挙公約分析で得られた左右度)を統制した上で明らかにした。選挙公約分析で得られた左右度を使うことで、政治の左右イデオロギーの変化と各国有権者の排外意識がどのような関係にあるか分析し、学会で発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
上記で説明した日本の政党の選挙公約の変化とそれに影響した要因(特に選挙制度改革)の研究については、論文化を進めると共に、内外の学会で発表していく(2018年7月のInternational Political Science Associationの大会で報告予定である)。また、排外意識に関する国際比較分析、経済変動と選挙公約の変化の関係に関する国際比較分析、国の政治的イデオロギーと有権者の幸福度の関係に関する国際比較分析も行っている。今後はこのように選挙公約データを使った多様なトピックの政治分析を行い、内外に発表していきたい。
|