研究課題/領域番号 |
15K03273
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田村 哲樹 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (30313985)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熟議システム / 熟議民主主義 / 政治理論 / 民主主義理論 / 家族と政治 |
研究実績の概要 |
まず、単著の研究書『熟議民主主義の困難――その乗り越え方の政治理論的考察』(ナカニシヤ出版、2017年5月)を刊行した。本書は、熟議システム概念の世界的な研究動向を踏まえつつ、その「システム」理解について、「入れ子型熟議システム」の概念の提起および自由民主主義と熟議システムとの関係の再検討を通じて、新たな問題提起を行うものである。 また、海外の研究者2名との共著による論文「Deliberative Democracy in East Asia」を脱稿した。本論文も含むThe Oxford Handbook of Deliberative Democracyは、2018年度中に刊行予定である。また、9月には、ブラジル・ミネスジェライス連邦大学(UFMG)からの招待で熟議システムと自由民主主義の再検討に関する2つの報告・講演などを行った。この渡航費は招待者である同大学からの支出であるが、招待責任者の一人である同大学のリカルド・F・メンドンサ助教授との研究ネットワークは、本研究課題での活動を通じて深められたものであるため、ここに記しておきたい。 さらに、熟議民主主義と政治概念の再検討に関する内容を含む、二冊の政治学教科書を、いずれも3名の研究者との共著で出版した。『ここから始める政治理論』(有斐閣ストゥディア、2017年)は、熟議民主主義を含む政治理論の現在の到達点を可能な限り平易な文体で伝えるものである。『政治学』(有斐閣、2017年)には、熟議民主主義を含む、「近代政治」の乗り越えをめぐる政治理論の研究動向や、経験的政治学と規範的政治学との関係についての説明も盛り込まれている。 その他、熟議民主主義と政治の再検討に関するいくつかの学会報告や論文執筆を行った。特に日本比較政治学会の共通論題では、熟議システム論の再解釈を通じて分断社会への新たな政治理論的アプローチを提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた通り、本年度は、単著研究書の刊行と政治学共著教科書2冊の刊行をはじめ、これまで進めてきたいくつかの研究の成果を公刊することができた。国際共著論文についても、最終校正と刊行を待つだけとなった。 本研究のサブ課題①「政治と規範の関係」については、単著『熟議民主主義の困難』における、理想理論/非理想理論という区分への疑問の提起や、共著『政治学』や『ここから始める政治理論』における、経験的政治学と(規範的)政治理論との異同についての叙述を通じて、研究の到達点をまとめることができた。また、熟議民主主義に即した「政治と規範」との関係について、昨年度から引き続き論文を執筆中である。サブ課題②「政治と経済の関係」については、『熟議民主主義の困難』で経済・職場をも一つの熟議システムとして理解すべきことを示唆し、かつ、産業・職場民主主義に関する研究を新たに進めつつある。サブ課題③「政治と家族」については、やはり『熟議民主主義の困難』で「熟議システムとしての家族」という視点を明確に打ち出し、『政治学』と『ここから始める政治理論』にこの課題に関する叙述を盛り込んだ他、このテーマに関する論集の刊行企画を進めた。 海外での研究成果発表についても、本研究課題によるキャンベラ大学熟議民主主義とグローバル・ガバナンスセンターでの研究報告(2016年3月)等を通じた海外の研究者とのネットワーク深化の成果として、ミネス・ジェライス連邦大学で講演・報告を行うことができた。「研究実績の概要」で述べた通り、これは同大学からの招待だが、その招待自体が本研究課題の成果である。また、2018年7月開催の世界政治学会(IPSA)(ブリスベン)での熟議民主主義関係の分科会「Beyond Talk」での報告に応募し、既に採択されている。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
サブ課題①(政治と規範)については、熟議民主主義における「政治と規範」というテーマに関する論文執筆を、引き続き進める。文献の収集等は進んでおり、今年度中に執筆を終える見込みである。 サブ課題②(政治と経済)については、産業・職場民主主義に関するいくつかの文献をすでに収集し読解を始めているが、このテーマについて熟議システム論を踏まえた検討をさらに進め、論文執筆につなげる。 サブ課題③(政治と家族)については、「日常生活と政治」をテーマにした論文集の企画を編者として進めている。この中で、「熟議システムとしての家族」についてさらに考察を深めるとともに、家族を含めた日常生活を真剣に踏まえることで、政治の概念と政治学のあり方がどのように変化するかを探究する。また、熟議民主主義の理論的源泉の一つであるユルゲン・ハーバーマスについての論文集の作成も編者として計画しており、その中でハーバーマスとフェミニズムとの関係を再検討する。この作業も、「政治と家族」についての熟議民主主義的な再検討の一つの成果となると考えている。 なお、英語での研究活動については、2018年度中に共著で寄稿したThe Oxford Handbook of Deliberative Democracyが刊行される予定である他、世界政治学会(IPSA)で海外の熟議民主主義研究者たちと共同の分科会で報告を行う。「Beyond Talk」と題するこの分科会は、熟議民主主義の世界的研究拠点の一つであるキャンベラ大学熟議民主主義とグローバル・ガバナンスセンターのスタッフ研究者および世界各地の協力研究者が報告者、司会者、討論者として集うものであり、本研究課題の成果発表の場として、また、今後に向けての研究ネットワーク深化のための場として、最適であると考えている。 以上の作業を通じて本研究課題をまとめつつ、その後の研究課題も構想したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度にオーストラリア・ブリスベンで開催される世界政治学会での研究報告を計画し、その旅費に充てるため。
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