本研究は、民主化後30年が経過したラテンアメリカにおける、福祉国家再編を促した要因を解明することを目的としている。具体的に、経済的および政治的要因を包括的に検証することを通じて、2000年以降に、同地域で所得格差と貧困の是正をもたらした福祉再編を巡る政治過程を分析することに主眼を置きつつ研究を遂行した。 平成27年度は、本研究に必要となる基礎的データの収集を行った。具体的に、福祉再編について国連ラテンアメリカ経済委員会(ECLAC)が国別にまとめた社会的保護の近年の再編についてまとめた出版物、各国政府が公表している一次資料、主要な学術書を読み込むことを通して、ラテンアメリカ全体、および各国における福祉再編の動向(本研究における従属変数)を正確に把握することに専念した。 平成28年度は、予備的調査の過程で生じた、新たな視点を当初の研究計画と矛盾しない形で研究課題に組み込むこととした。具体的に、中間成果を、国際学会で報告するとともに、政治経済的条件に加えて、自然災害も福祉国家のあり方に影響を与えている、との新たな仮説を導くに至った。 平成29年度は、ラテンアメリカ域内において社会経済発展度が比較的低い中米のグアテマラと、南米アンデス地域のエクアドルに焦点を合わせた。国際学会に参加して専門家と意見交換を行うことを通じて、両国の社会的保護政策に関する最新の研究動向について学んだ。研究成果を両学会で報告した。特に、同地域の社会的保護政策は限定的であり、経済成長の鈍化とともに、所得格差および貧困は再び悪化しつつあることが明らかになった。 最終年度である平成30年度は、前年度までに実施した研究内容を踏まえ、本研究課題の総括を行った。定量的・定性的な分析を行い、国際学会で報告するとともに、研究成果を英語による単書として出版する準備を開始した。
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