研究課題/領域番号 |
15K03277
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
上野 眞也 熊本大学, 政策創造研究教育センター, 教授 (70333523)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コミュニティ政策 / 政策デザイン / 積極的逸脱 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代の複雑化した政策課題対応の実効性を高めるため、積極的逸脱(Positive Deviance: PD)アプローチを用いた、コミュニティベース型政策形成と介入モデルについて研究することを目的としている。 政策科学では、科学的な政策決定と政策分析、因果関係に注目した問題構造の解明、そして客観的政策選択や評価などが研究されてきた。しかし現実世界における医療健康福祉やコミュニティ の課題など多くの公共的問題は、要因が複雑に絡まりあう悪構造をしており、問題を分解し、因果関係への対処を行う実証主義的アプローチだけでは有効な対策となり得ないことも多い。 そこで本研究では、コミュニティが直面する具体的問題に対して、(1)有効なパフォーマンスを示す個人やグループの積極的逸脱行動を探索し、(2)その含意を政策デザインに生かし、(3)コミュ ニティのネットワークを使って効果的に問題解決を行う新しい政策形成と介入法の研究、及び(4)その普及・伝搬について研究を行った。 平成27年度は、単なる政府による規制や技術的対応ではなく、多様な住民の協力を得られなければ政策目的が達成しがたい特性を有する社会的課題のモデルとして、(1)地下水盆を共有する地域の地下水保全問題への対応、(2)水俣病問題の社会的伝搬力、及び(3)コミュニティ活動への住民の連帯感形成について調査研究した。 これらの成果は、海外共同研究としてアーバンガバナンスに関する国際会議を上海交通大学と共催して中国で開催し、コミュニティベース型政策形成への行政介入法について研究者と知見の共有を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コミュニティが直面する課題について、良い意味で逸脱してよい効果を挙げている4事例について、以下のような調査研究を行った。 (1)地下水保全について、住民、農家、企業、行政が協働する取り組みの研究(熊本都市圏)、(2)水俣病メチル水銀曝露リスク言説の八代海沿岸全域及び内陸部への伝搬について、患者団体、訴訟弁護団、住民組織、漁協などが相互に関係し合いリスク不安が広がる中で、積極的な逸脱を示す地域の調査(熊本県、鹿児島県)、(3)山間地の地域活性化についてITを活かした行政、マスメディアとの協働事例調査(和歌山県田部市)、(4)離島・山村の教育を活かした地域振興介入事例の研究(島根県海士町)を行った。 これらの研究成果は、著書2冊、論文2本、報告書1本として公表したほか、国際学会での発表1件、国際セミナーでの発表1件を行った。また研究成果の社会への還元として、政令市議長会での講演、熊本市都市政策研究所講演会での講演を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、積極的逸脱(PD)行動 の分析として、置かれた状況のなかでより良い行動を行っている個人や組織(いわゆる積極的逸脱者)が、日常の中でどのような認識や方法でよい効果を挙げているのか。また、なぜ他者は問題を認知しながら改善行動に至らないのかを、インタビュー調査と知識と行動の 関連を調べる社会ネットワーク分析により明らかにする。 またPD 的介入のための政策デザインとしては、コミュニティのソーシャル・キャピタルと社会ネットワーク、ソーシャルダイナミクスの観点から、どのような社会力学が問題構造ループとなって相互反応による問題が発生しているのか、問題改善を促進するためにはどのようなループ構造に変えると介入法が生きるのかについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査旅費の利用が計画よりも少なかったこと、人件費謝金が不要となったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、平成27年度に予定していた調査研究を含め、計画的に研究事業を実施する予定。
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