研究期間最終年にあたる平成29年度は、研究全体のまとめを行った。研究実績としては(1)租税と財政支出を一体的に把握する規範原理として「タックス・ジャスティス」を設定し、その根拠を市場社会において発生しうる「公共悪」からの、社会構成員の保護に求めた、(2)その上で「タックス・ジャスティス」の具体的な規範が、市場社会で損傷されやすい「人間の尊厳」を保持する点にあることを導出した、(3)さらに租税が社会構成員相互の社会契約から成り立つことを明らかにし、その観点で税制上の不正(租税回避など)が社会構成員に課せられる「フェアプレー義務」に違反する点も付随的に明らかにした、(4)最後に市場が国境を越えて拡張する現実を踏まえ、「タックス・ジャスティス」が国境を越える税制(グローバル・タックス)を要請する点を明らかにし、航空券税、金融取引税などの税制の倫理的意味を検討した。こうした研究を通して、従来の税の規範的把握(例えば課税の公正に関わる「水平的公平」と「垂直的公平」)が、課税局面のみの規範であり、財政支出の目的やその公正さと一体的把握がされていない点で狭隘であること、正義を実現するためには、課税の形式的な公正さや中立性を越える実質的な規範の必要性を射程に入れることができていないことが明らかになり、通説的な租税の公平基準を超える必要性を明らかにすることができた。 これらの研究成果を単著『タックス・ジャスティス―税の政治哲学』として風行社から公刊した。
|