本年度は前年度の関心を継続し、ベルギー連邦制の「脆弱性」の結果として、2015-2016年のテロ事件があったことを検討した。先行研究を収集、整理し、さらに現地新聞などで情報を整理した。また、最終年度のため、主にここまでの研究成果の公表、執筆を意識した。 さらに、2016年に刊行された、松尾他編『連邦制の逆説?』(ナカニシヤ)の反響をベースに、また西欧における2016年のポピュリズムの台頭を受けて、日本政治学会において、松尾秀哉「多極共存型民主主義における大統領制化とその後――ベルギーの場合」(岩崎正洋企画「大統領制化と民主主義」2017年9月23日。於法政大学)を報告し、複雑な連邦制の下で、大統領制化が進行した様子を論じた。有益な質疑応答を経て、本論考は論文集として刊行の予定である(2018年度中の予定)。 他、先のポピュリズムとの関連で、現代の理論デジタル13号「吹き荒れるポピュリズムの行くえーー仏大統領選後もせめぎあう合理と非合理」で、ベルギーの合意型デモクラシーに基づく連邦制度で、ポピュリズムが台頭しやすいことにも言及した。 さらに、調査途中で入手した資料にもとづき、複雑な連邦制において国王が果たす合意形成の機能に注目した論考(仮)「君主を戴く共和国――ベルギー国王とデモクラシーの紆余曲折」、水島・君塚編(仮)『現代世界の陛下たち』(ミネルヴァ、2018年刊行予定)を執筆できた。他、君主制を中心に、ベルギー政治研究者を集めて議論した結果、『現代ベルギー政治』(ミネルヴァ)が間もなく刊行の予定である。主に教科書として科研の研究成果を社会に還元することができた。多くの執筆機会に恵まれ、採択いただいたことに感謝する。
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