本年度は、①年金給付縮減の推移、②年金体制の経路依存性の変化、そして③年金体制における「公―私」の再編について考察した。①(a)1990年から2011年におけるOECD諸国の公的・私的年金の給付率(対GDP比)のデータによると、公的年金の給付率は全体的に緩やかに増加している一方、私的職域年金への加入を義務化している国では公的年金の給付率が縮減していることが明らかになった。(b)OECD諸国の公的社会支出の対GDP比の伸び率を2期間に区分しそれぞれの変化率を比較し分析結果からは、医療や失業・労働分野と比べ公的年金の減少率は著しく低く年金給付の縮減が難しいことが判明した。②経路依存性が高いとされてきた年金体制は、2000年以降、経路を離脱する形で制度改革が行われている。特に契約性が高く経路依存性も高いビスマルク型の年金体制において、ドイツの確定拠出型私的年金制度の導入やスウェーデンの公的年金における「概念上の確定拠出建て制度(NDC)」の導入は、経路を逸脱した制度改革であった。③1980年代以降、各国では縮減政策の一環として、公的年金の縮小に対する私的年金の拡充という「公―私」のバランスに基づく制度改革が行われてきた。しかしながら、2000年以降の制度改革をみると、伝統的な年金体制はそれまでの経路から逸脱し、また年金財政支出の抑制を行いながらも公的年金制度の安定や充実を図る「縮減」政策から制度自体を「再編」する改革へと変化している。例えば、公的年金にNDCや積立方式の導入を行い、また確定拠出型私的年金制度へ強制的あるいは自動的に加入させる制度改革などは、年金を「個人勘定=貯蓄」の制度とし、個人の意思や責任(年金の個人化)を意識させた改革である。この年金体制の「再編」改革は、公的年金の再分配機能や役割をいかに変化させ、また年金の個人化はいかなるリスクや不平等をもたらすか考察した。
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