研究最終年度となった平成29年度は、資料の精査を急ぐとともに、学会発表及び論文の公刊を行った。これまでの資料精査の蓄積から、金正日政権はいくつもの国内外危機を乗り越えて体制護持を図りつつ現在の金正恩政権に繋いだが、その中でも重要な危機は二つあるとの結論に至った。 第一に、1990年代の「苦難の行軍」である。直接的な契機はソ連・東欧諸国における社会主義体制の崩壊に伴う経済危機であったが、北朝鮮国内ではそれに加えて金日成主席の死去も要因に数えられている。これまで進めてきた「先軍政治」に関する研究とともに集大成する必要がある。 第二に、2000年代末の後継者問題である。2008年8月に金正日国防委員長が脳卒中で倒れたことが直接的契機であったが、短期間で後継者を内定、さらには党代表者会を通じて公表することで体制護持が図られた。後継者に内定した当時、金正恩氏は20代半ばの若さであったが、迅速な後継者擁立を盤石な官僚体制が支えることによって体制は政治変動を起こすことがないまま存続されたのである。 三年間資料に向き合ってきたが、北朝鮮側は一部歴史の修正作業も進めており、新たな資料を次々に刊行している。よりシステマティックに資料精査の作業を進める必要性を感じざるを得なかった。また、時期を得た国外出張によって、研究上のヒントを多く得たばかりか、実証性を高めることができた。最終年度は英文による発信も心掛けた。
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