研究課題/領域番号 |
15K03285
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡山 裕 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70272408)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 情報公開 / 行政国家 / 知る権利 / アメリカ / 情報の自由法 |
研究実績の概要 |
本研究課題の3年目にあたる2017年度には、前年度までの基礎的な分析を踏まえて、情報公開法の制定につながった直接の政治的条件の確定を中心的課題に据えて分析を行った。アメリカの情報公開法の重要な特徴として、行政機関のみに公開を義務づけている点があり、本研究ではそれを、立法権を担う連邦議会が裁量的な法執行を行う行政機関を制約するために導入したという動機づけに基づいていたと考えている。それに関して具体的に、次の2点の検討を進め、それぞれについて一定の成果が得られた。 第1に、行政機関については20世紀半ばから様々な批判が噴出していたことが立法への追い風になったと考えられる。この時期、とくに規制政策を担う行政機関に対しては、政策決定に際して多大な自律性を与えられていたにもかかわらず、規制対象に取り込まれてしまうか、そうでなくとも十分な専門性を発揮できていないという議論が、政府内や関連分野の研究者から相次いで登場していた。そのため、適切な政策決定が行われているかを明らかにするという観点から、情報公開の義務づけを正当化しやすくなったとみられるのである。第2に、行政機関はそれまで徹底した記録管理といった点で厳格な手続きが求められていたのが、この時期に手続きの簡略化がより広く認められるようになった。そのため、厳格手続きに代わる行政機関の統制手段として、情報公開を導入する動機が議会側で強まったと考えられるのである。1960年代という情報公開法の制定に関しては、社会的な情報公開への気運の盛り上がりもさることながら、こうした連邦議会側の動機付けの強まりが重要な背景を成していることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、とくに2年目に第二次世界大戦前まで遡って行政機関の位置づけを再検討することが必要となったために、当初想定していたよりも具体的な立法過程の検討に入るのが遅くなっている。しかし、その過程で、法学の研究者以外にはあまり理解されていない、20世紀半ばからの行政手続きの簡略化と、それが情報公開法の立法に与えたであろう影響について検討することが可能になった。それにより、立法過程における関係者の議論をより正確に理解できるようになり、政府に情報公開を求める社会側の要求によって立法が進んだという通説を覆そうとする本研究の立論がより説得力を増すことになったため、進捗という点でも問題はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度となる2018年度については、次の2点を意識して研究を推進する予定である。第一は、情報公開法の立法に際して大統領への統制がどこまで意識され、試みられたかという点を明らかにすることである。1960年代には、「帝王的」といわれるほど政策形成・執行の両面で大統領の独断専行が目立つようになった。そのため、連邦議会が情報公開法を制定するに際しても、行政機関だけでなく大統領府に情報公開を義務づけたり、行政機関に限る場合でも大統領との関係を意識した規定を置くことは考えられた。実際には大統領の抵抗に遭うのが確実だったにせよ、この点がどの程度検討されたのかを明らかにしたい。 第二は、いうまでもなく本研究全体のとりまとめである。20世紀前半まで遡って分析を行ったために、当初予定していたよりも研究の射程が長くなったため、どのような媒体・長さで論文としてまとめるかを改めて検討する必要がある。情報公開法自体の制定過程を直接扱う研究としてだけでなく、アメリカの行政史という大きな枠組みで成果を発表することも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であったノートパソコンが、注文後納期が度々延期されるという問題が生じ、一旦キャンセルしたために次年度使用額が発生した。次年度に購入を予定している。
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