本研究は、「科学と政治思想」という問題意識のもと、西洋学術の伝播と東アジアの伝統との相剋を視野に入れながら、徳川期における蘭学の勃興と展開について、比較政治思想史の観点から検討し、近代日本の始源を問い直すことを目的とする。 2019年度に終了の予定であった本研究だが、コロナ禍により、計画していたオランダでの史料調査が実現できなかったため、研究期間の延長を認めていただいてきた。2021年度もオランダでの調査は実施できなかったが、しかしこの間の学問活動をもとに、本研究を終結するに値する研究成果を広く公開することができた。 第一に、本研究は、近代国家形成を巡る重要な一契機を、civil とmilitaryへのEngineeringの分化と、 Civil Engineering(土木工学)とMilitary Engineering(軍事工学)の専門化、制度化に見出す。2021年度、この研究課題の中核となる研究論文「蘭学と西洋兵学―比較と連鎖の政治思想史―」を正式に公刊することができた。同論稿は、2019年に発表した研究論文「近代日本とデルフトアカデミー」と対をなす。 第二に、その成果をもとに、オンラインで開催された世界政治学会(IPSA)に参加し、セッション「GS05.07 Is There a Non-Western or a Neo-Nationalistic Political Theory?」にて、東アジア政治思想史の視座から研究報告を行った。 さらに、日本政治学会のセッション「太平洋と島々の政治思想――帝国・移民・人種(主義)」で討論者をつとめるとともに、新たに論稿「オランダ語で読む明治日本」(松方冬子編『オランダ語史料入門』)、書評論文「異説争論の際に事物の真理を求る 松沢弘陽著『福澤諭吉の思想的格闘―生と死を超えて』を読む」(『福澤諭吉年鑑』48号)を執筆・公刊した。
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