本研究は、新自由主義/新保守主義が多様で異質な諸団体・アイディアから構成される運動体であり、その改革には国・時期・政策領域ごとに多様性が存在するという点に注目し、この多様性が生じる背景を、各国の制度環境、およびその下で展開される政党―社会集団関係から分析するという試みの一環である。こうした問題意識の下、本研究では、アメリカの初等中等教育改革(以下、教育改革と略)を事例として、1980-2000年代の時期に共和党政権が追求した教育改革の変化、およびその基底にある共和党と保守系諸団体間の連合関係の変化について分析してきた。 最終年度に当たる2017年度は、アメリカの新自由主義/新保守主義勢力を構成する主要な社会集団に注目し、教育改革に関する彼らのアイディアの多元性とその背景、およびそれらの政策形成過程への影響について分析した。また同年度は、ジョージタウン大学で五か月間、在外研究を行う機会を得たため、同大学の図書館・議会図書館で、多様な保守系団体の刊行物や議会公聴会での証言記録などの資料収集を行った。この研究の中では、アメリカの保守系諸団体のうち、特に近年の教育改革に積極的に関与してきた、①リバタリアン、②経営者団体、③社会・宗教的保守派に焦点を当て、各団体の改革アイディア、相互の間に孕まれる緊張と接合可能性、各アイディア形成の背景となった社会・経済・政治状況や制度環境との関係について分析した。さらに、これらの保守系諸団体と共和党諸派、および諸団体間の連合―対立関係が、2000年代のジョージ・W・ブッシュJr.政権による「どの子も落ちこぼれにしない法」の制定過程にいかなる影響をもたらしたか、についても分析した。上記の研究成果を全二回連載の論文にまとめ、まずその前半部分のみを2018年3月刊行の紀要に掲載した(後半部分は、2018年9月に刊行予定)。
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