平成29年度の研究成果:平成29年度は、本研究課題の実施最終年度であることを踏まえ、前年度までに実施した調査研究の成果を豊富化させるべく、法務官が所掌する軍法務の実体を明らかにするため、①故伊藤博氏(ニューヨーク州立大学プラッツバーグ校教授)より研究代表者に提供された法務官経験者を含む法曹関係者へのヒアリングデータの分析を行った。②故堀木常助陸軍法務官(陸軍第七師団法務部長兼旭川衛戍刑務所長)の遺族とコンタクトが取れたことから、堀木氏の任命裁可書をまず収集して彼の執務状況の把握に乗り出した。③本研究課題の「中間成果物としての配属先別軍法務官リスト」の作成を進めるとともに、「軍法務官の身分変更の前後両1年における量刑変化の量的把握」作業を実施した。 併せて、これまでの調査研究の成果を踏まえ、軍(「統帥の要請」)と司法の緊張関係の必然性、さらにその今日的含意にも研究射程を広げた。一方で、本研究課題における重要な分析視角である政軍関係についても、近代日本における議会との関係性に注目した調査研究を実施し、国際学会においてその成果を報告している。 研究の成果・重要性:平成29年度に実施した調査研究を通じて、軍法務の実体を明らかにできたのみならず、それを通じて戦前期日本の司法制度の特徴をとらえる新たな分析視角を得られたことは、司法権の独立をめぐる研究に大きな貢献をもたらした。また、法務官経験者のヒアリングデータを入手できたこと、および堀木氏の個人文書にアクセスできる目途が立ったことは、これらを活用する下記の研究を通じて、法務官研究を一層発展させることになるはずである。 すなわち、本研究課題を発展させた調査研究「戦前期日本の軍法務をめぐる実証研究─陸軍法務官・堀木常助を中心として」が、平成30年度科学研究費助成事業に内定し、既に予備調査に着手している。
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