本研究課題は、旧ユーゴ諸国における戦争犯罪行為の真相究明や加害者の処罰、被害者の救済といった「移行期正義」の取り組みが、国家間・民族間の和解にどのような影響を与えているかを明らかにすることを目的としており、そのために、(1)戦争犯罪に関する各国司法の取り組み(国内裁判)、(2)市民社会組織による真相究明と対話の取り組み、(3)研究者による共通歴史教材作成の試み、の3点に着目した定量的・定性的なデータ・資料の収集と分析を行ってきた。最終年度となる平成30年度は、必要に応じて書籍などの資料を追加で購入しながら、これまでの研究・分析の成果を総合する作業を進めた。具体的には、『争われる正義ー旧ユーゴ地域の政党政治と移行期正義』と題する単著の出版に向け、原稿の整理作業を行った。この書籍はもともと平成30年度中の刊行を予定していたが、当初は原稿に含めることを予定していなかった分析を追加することを決めたため、刊行が当初の予定よりも遅れている。しかし、平成30年度中に追加の分析を含めた全ての分析を完了することができた。上記の書籍の原稿は、本報告書を執筆時点でほぼ全ての章の入稿を終え、令和元年9月から10月には刊行される予定である。この書籍は、旧ユーゴ地域における移行期正義の取り組みの進展状況を包括的に記述した後、セルビアを分析対象として取り上げて、移行期正義の規定要因と、移行期正義がセルビアの国内メディアや世論に与えた影響、さらにセルビア政府首脳等による公的な謝罪が国家間・民族間の和解に与えた影響についてできる限り実証的に考察したものである。この書籍の刊行により、この問題に関する先行研究に一定の知見を加え、旧ユーゴ地域における移行期正義をめぐる政治の動態に関する理解を促進することに貢献できると考えている。
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