研究課題/領域番号 |
15K03295
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松本 礼二 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 名誉教授 (30013022)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トクヴィル / アルジェリア / 植民地主義 / 自由帝国主義 / ナショナリズム / 英国のインド統治 / アメリカ西部開拓 |
研究実績の概要 |
①研究の出発点として、トクヴィルのアルジェリア論を19世紀ヨーロッパの自由帝国主義(liberal imperialism)言説の中に位置づけ、特にミル父子のインド統治論と比較した。トクヴィル自身が英国のインド統治を参照し、特にジェームズ・ミルの著作を精読しているだけに、これは当然の接近法である。英国のインド統治に遅れるなという対英競争意識が出発点にあるのは確かだが、文明化の使命によって植民地統治を正当化する観点はトクヴィルには希薄であり、逆に被征服種族の固有の文化、宗教、習俗それ自体に立ち入った検討を行い、それゆえに植民地統治の困難性も強く意識されている。 ②英国のインド統治とフランスのアルジェリア支配との最大の相違は、アルジェリアには本国から大量のフランス人が移住した点にある。ただし、植民、定住が軌道に乗るのは第二共和制においてアルジェリアがフランスの一部と宣言されてからであり、第三共和制以降本格的に定住が進むのであるが、それだけにトクヴィルが軍事的征服をいかにして定住植民地に変えるかを時代に先駆けて論じているのは注目に値する。 ③同時代の論者の中で突出するトクヴィルのアルジェリア植民への積極的な関心の一つの要因は、彼がアメリカの西部開拓を実地に観察し、そこに「民主的人民」のエネルギーの発露を見出したからではないか、というのが本研究の一つの仮説である。ただし、この点の検証はなお十分に進んでいない。 ④トクヴィルのアルジェリア論の以上のような特質を理解するには、同時代のフランスにおける他の論者、特にトクヴィルとは立場を異にする論者との比較が不可欠である。この点では、トクヴィルに対立してアルジェリア撤退を説いたアマデー・デジョベールが中でも注目され、デジョベールのアルジェリア関係の論考については、2016年2-3月に、エクサンプロヴァンスの国立文書館海外部門で資料調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年3月末に早稲田大学を定年退職した後、様々な研究及び事務上の手続き、研究継続の物理的環境の整備に思いの他時間と労力を割かざるを得なかった。特に、昨年2-3月のフランス出張に続いて、2度目の資料調査をフランスで行う予定であったが、諸般の事情により、昨年度中はその余裕をもてなかったことは、本研究の進捗の妨げとなった。 遅れのもう一つの理由は、本研究に先行する平成24-26年度科学研究費課題「東欧・中国の民主化とトクヴィルおよびシュンペーターのデモクラシー論」の研究成果の刊行に力を注いだことである。この研究の一環として平成27年9月に開催した国際学会「トクヴィルと東アジアTocqueville and East Asia」に提出した英文ペーパーReiji Matsumoto, "Fukuzawa Yukichi and Maruyama Masao: Two Liberal Readings of Tocqueville in Japan"は、同じく提出された研究分担者渡辺浩の論文"The French, Meiji and Chinese Revolutions in the Conceptual Framework of Tocqueville"とともに、英仏二言語によるトクヴィル研究の専門誌Tocqueville Review/Revue Tocquevilleの近刊号に掲載される予定である。なお、同号には上記国際学会に招いたフランソワーズ・メロニオ教授(同誌編集主幹)によるこの学会の紹介記事も掲載される。日本のトクヴィル研究を世界に発信する成果といえよう。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、平成28年度に予定していながら、諸般の事情により実行できなかったフランスにおける二度目の資料調査を行いたい。19世紀前半のフランスの政界、言論界におけるアルジェリア関連言説の文献調査が目的で、パリ(国立図書館、国立文書館)およびエクサンプロヴァンス(国立文書館海外部門)における作業を予定している。 海外調査としては、米国イェール大学バイネッケ図書館所蔵のトクヴィル文書についての調査も行いたい。本研究プロジェクトとの関連では、西部開拓やアメリカ先住民の駆逐についてのトクヴィルの関心や理解が彼のアルジェリア論といかに関連しているかの検証が目的であるが、費用と時間の点で実行できるか、不確定要素もある。 本研究のもう一つの仮説で、なお検討が進んいないのは、トクヴィルの軍隊・戦争論とアルジェリア植民論との論理的関連に関わる論点である。トクヴィルの軍隊・戦争論それ自体についてはすでに包括的な検討を行い、邦文、英文でいくつかの論考を発表しているが、まったく同時期に彼が著しているアルジェリア論との論理的関連については仮説を提示するにとどまり、資料的検討をいまだ進めていない。 以上、本研究プロジェクトの重要な部分でありながら、なお十分に取り組めていない作業を進めたうえで、研究の取りまとめに入る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランス(パリおよびエクサンプロヴァンス)における資料調査のため海外出張を予定していたが、諸般の事情のためこれを実行できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度予定しながら、実行できなかったフランスにおける資料調査の費用に使用する予定。
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