研究課題/領域番号 |
15K03297
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
山田 竜作 創価大学, 国際教養学部, 教授 (30285580)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カール・マンハイム / 自由のための計画 / 精神の民主化 / 情動のデモクラシー / 民主的相互行為 |
研究実績の概要 |
本年度は当初の計画では、マンハイムと T. S. エリオットとの関係、およびキリスト教知識人サークル「ムート」について資料を収集・解読することを目的としていた。しかし、海外の複数のマンハイム研究者との知遇を得、彼らから種々の教示を受ける中で、マンハイムが考えた「合理性」の再検討を優先する方向に研究をシフトさせた。特に、大衆社会における非合理的な「情動のデモクラシー」の克服のために「精神の民主化」が必要とされる点に注目し、マンハイムが言う「実質的合理性」を具えた人間を輩出する彼の社会的教育論と、それがデモクラシー論の文脈において持つ意味を、改めて洗いなおすこととなった。 その成果の一部は、9月にチェコ・プラハで開催された国際会議・世界心理学フォーラムWPFでの発表という形で公表した。この会議で発表することになったのは、「精神の民主化」の問題を、政治哲学よりも社会心理学的な問題として整理しなおす必要性を提起したかったためである。実際、学会当日の9月17日には、会議全体のゲストスピーカーとして招待されていたスロヴァキアの社会心理学者から、非常に好意的に受け入れられ、マンハイムを含む20世紀前半の、社会心理学に影響を受けた政治・社会思想家の思想史を再検討することの重要性について、関心を共有することができた。 そこで得た知見と、科研費採択直前にイギリス政治学会PSAで発表した報告原稿をもとに、"Karl Mannheim on Democratic Interaction: Revisiting Mass Society Theory" (カール・マンハイムの民主的相互行為論――大衆社会理論再訪)という英文論文を執筆した。この原稿を、スロヴァキア科学アカデミーの国際英文雑誌 Human Affairs に投稿し、査読の結果掲載が確定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述の通り、研究推進の順序を変えたため、当初考えていた資料の収集と読み込みの作業が遅れ気味である。特に、キール大学図書館に所蔵の「マンハイム文書」の調査がまだできていない。また、アメリカ在住のマンハイム研究者との知遇を得る中で、彼らが計画中のマンハイムに関する共著の1つの章を担当することとなった。この章の内容は本研究課題とまさに合致するものの、しかし研究計画に含まれていない部分で検討を要することも少なくないため(特にマンハイムと同時代の他のデモクラシー論者との位置関係の問題)、エリオットとマンハイムの関係性、また A. D. リンゼイとマンハイムとの関係性という、本研究の中核部分の問題については、一定の資料を収集するところまではできているものの、その解読作業は遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
キール大学図書館の「マンハイム文書」の保管状態がよくないとの情報があるため、数十年にわたってマンハイムの資料を収集してきたアメリカの研究者にまず面会して、種々の教示を受けることを優先する。また、1940年代イギリスの知的文脈におけるマンハイムの思想の位置づけに関係して、同時代の知識人 E. H. カーに関する日本の共著においてマンハイムに関する章を執筆予定にもなっている。これらを通じ、イギリス時代のマンハイムの思想で従来触れられてこなかったいくつかの点を明らかにする中で、マンハイムの思考法そのものを改めて再確認したい。それを踏まえた上で。改めてエリオット、リンゼイ、「ムート」とマンハイムの関係についての資料を読み込むこととする。キール大学へは2017年に訪問し、「マンハイム文書」と「リンゼイ文書」の調査を行うことにしたい。
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