研究課題/領域番号 |
15K03297
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
山田 竜作 創価大学, 国際教養学部, 教授 (30285580)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カール・マンハイム / ムート / T. S. エリオット / A. D. リンゼイ / 精神の民主化 |
研究実績の概要 |
まず、前年度の海外学会発表に基づく英文論文 "Karl Mannheim on Democratic Interaction: Revisiting Mass Society Theory" が、スロヴァキア科学アカデミーの査読付き専門誌 Human Affairs に掲載された。 当該年度は当初、「マンハイム文書」および彼のイギリスでの同時代人 A. D. リンゼイの「リンゼイ文書」を所蔵しているキール大学図書館でのリサーチを計画したが、マンハイム研究の大家 David Kettler 氏との知遇を得るに至り、氏を訪ねてニューヨーク州バード大学に行き、氏が過去数十年に渡って収集した資料の一部を入手させてもらった。 それらの資料の中で、マンハイムのイギリスでの議論の相手であった T. S. エリオットと前述のリンゼイに関係するものを検討し、両者とマンハイムの「デモクラシー」と「精神の民主化」に関する考え方の異同を明らかにすることを試みた。それらの検討を含んだ英文論文を執筆したが、上述の Kettler 氏と Volker Meja 氏を編者とする論文集 The Anthem Companion to Karl Mannheim の1つの章として、平成29年度に刊行予定である。 この研究成果は、マンハイムが関わったキリスト教知識人サークル「ムート」につき十分に検討されてこなかった文献・文書に基づいている。従来のマンハイム研究の大半が、彼の著作の読解にのみ基づくか、イギリス亡命前のドイツ思想の文脈で語られるものだったのに対し、1930~40年代のイギリスの文脈でのマンハイムの思考の発展を明らかにする一歩を踏み出すこととなった。さらなる課題として、「ムート」における他の参加メンバーとの議論・討論、その中でのマンハイムの「自由のための計画」論の受容のされ方を探究する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画の中で重要な位置を占める、マンハイムの英文遺稿集 Essays on the Sociology of Culture の第3部について、ようやく読解を開始したところであり、十分な検討をするには至っていない。また、イギリス期マンハイムの思想や関心をよく表している戦時論文集『現代の診断』のいくつかの章は、「ムート」に向けて書かれた原稿に基づいているが、そのオリジナルの文書をまだ入手するに至っておらず、「ムート」参加メンバー間の議論・討論の本格的な検討には着手できていない。さらに、本来はキール大学図書館にて「マンハイム文書」と「リンゼイ文書」をリサーチする予定だったが、前述の Kettler 氏のもとでの資料収集を優先させたため、マンハイムとリンゼイの関係性について十分な検討をするだけの資料がまだ集まっていない。
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今後の研究の推進方策 |
「ムート」に途中から参加したマンハイムがやがてそこで中心的な役割を果たすに至るプロセスを明らかにするため、さらなる資料を収集することが大きな課題となる。ロンドン大学 UCL の教育研究院図書館、およびエディンバラ大学神学部図書館に、「ムート文書」が保管されており、そのカタログの中には、マンハイムが「ムート」にて報告した諸原稿――大衆デモクラシーにおけるキリスト教の役割、教育の重要性、彼が考える「計画」とデモクラシーとの関係性、等々――が含まれている。これら第一級の第一次資料を入手し、検討を加える。同時に、マンハイムが「ムート」に参加するようになって以降に親交が始まったリンゼイとの関係について、それを明らかにする十分な資料が揃っていないため、マンハイムが読んだとされるリンゼイの著作『キリスト教諸教会とデモクラシー』『現代民主主義国家』、および現存する両者の往復書簡等を吟味し、そこにおけるマンハイムとの問題意識の異同を明らかにすることを試みる。現時点において、キール大学図書館で発生した水道管破裂事故の影響で部外者の資料閲覧が制限されているため、同大学での「リンゼイ文書」と「マンハイム文書」をリサーチすることができない。ゆえに、主な資料収集についてはロンドン大学 UCL とエディンバラ大学での「ムート文書」に限り、リンゼイについては彼の著作の解読に重きを置くこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
英文論文の英語校閲料が、当初の見積もりよりも安く済んだため、差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
文献購入の一部に使用予定。
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