国内の諸大学で研究に必要な資料を収集した。具体的な収集場所は、早稲田大学、中央大学、北海道大学の各大学図書館である。雑誌としては『ソヴェト国家と法』がもっとも直接的に研究にかかわり、昨年度から引き続き収集・分析にあたっている。さらに、ソ連邦最高裁判所判例集を1953年から1970年まで閲覧・調査し、労働関係事案を集め、その分析をスタートさせた。そのほか、研究の背景として当時の知的状況をよく示す雑誌として閲覧・収集を試みたのが『哲学の諸問題』と、ソ連邦共産党中央委員会総会の速記録である。最後の二種類についてはまだ収集の余地がある。 収集した資料から、スターリン後の各種制度変更につき、活発な議論が行われ、様々な可能性が模索されていたことが明らかになった。連邦レベルの労働法が法案としてまとめられながらも、なかなかソ連邦最高会議にかけられなかったことは、論点によっては合意が形成できないほどに議論が分かれていたことを示す。 また、スターリン後のソ連民主主義の特色について考え直す機会を得て、「利益の同質性の中の齟齬」という表題の論文を執筆した。岩波書店のロシア革命とソ連の世紀5巻本シリーズに収録され、本年秋までに刊行の予定である。この考察を経ることによって、自由主義を排除したソ連において、利益の同質性を緩めることにより自由主義をいわば裏口から呼び込んだことを示した。また、同時代の政治的な文脈を理解するうえで和田春樹『スターリン批判1953~56』の書評を行ったことは有益であった。すでに脱稿し刊行待ちの状態である。 そのほか、時代を超えた比較のために、溝口修平『ロシア連邦憲法体制の成立』の書評も役に立った。校正済みであり、間もなく刊行される。
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