本年度は当初計画の通り、主として冷戦期国連における日本とアジア・アフリカ諸国、並びに西側陣営との関係に関する著書の執筆に専念していた。平成31年3月の時点で、既に原稿の半分程度(およそ5章分)は完成しており、残りの章に関する執筆準備もおおむね、順調に進んでいる。著書の内容や構成についても史料調査と解読の成果を常に反映させるべく、調整を試みた結果、時代設定がより絞られる形になる一方、分析の対象は当初計画していた国連本体より一部の専門機関まで広がるようになっている。著書の執筆作業を最優先にしながら、本件プロジェクトの課題との関連で、日本国際連合協会編纂の図書(『わかりやすい国連の活動と世界』)の改訂作業にも参加している。その成果として、今まで同書になかった日本と国連の関係に関する章を日本語及び英語の両方で新たに執筆した。 なお、補助事業期間全体を通じて国連と日本の対西側陣営の協力との相関関係を常に問題意識として重視しており、上記の冷戦期国連外交全般に関する著作のなかで凡そ半分の紙幅をこの課題に割いている。そこから得た識見は国連外交史の裾野を広げるだけでなく、従来の二国間中心の日米や日英関係史の研究で看過しがちな多くの側面を浮き彫りにさせることができたのである。また国連と日本の対AA政策並びに日本外交の「グローバル化」との関連について、国連外交全般に関する著書と並んで、主に日中両国の比較という形で英文共著並びに査読付きジャーナル論文を複数刊行し、いずれも近年公開された一次史料に基づいて先行研究にない独特の切り口をもって実証分析を試みたものである。更に、国連政策と日本の国内政治との連動は今までの研究でほぼ完全に欠落している視点であり、冷戦期国連外交を扱う執筆中の著書においてそれを重点的にとりあげとともに研究会などでそれに関する口頭報告も行ない、好評を得ている。
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