本科研費は、EUとトルコとの関係の経緯と現状について分析を行うことを目的としていた。とりわけ、EUのトルコ関連の認識・言説・政策がどのように変化してきたのかについて、独自の時期区分にしたがって時系列的に分析することを試みていた。2021年度までは過去の経緯の取り纏めに徹していたが、2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、トルコが同年3月の停戦協定や夏のロシア・ウクライナ・トルコ・国連穀物合意などに乗り出したことで、本研究課題の前提も大きく変化した。本研究課題の前提とは、EUとトルコを、トルコのEU加盟問題や関税同盟の近代化問題、難民合意問題等、両者の関係構築に関するイシューを巡ってバイラテラルなバーゲニングを行うアクターとしてとらえるものだった。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻勃発後は、EUとトルコはロシアとウクライナに対して、時に共働し、時に相反する形で働きかける外部アクターとして作用した。さらにこの侵略を巡り、仲介者としてのトルコの重要性は格段に上がった。このため2022年度に関しては、侵攻に対するEUとトルコの働きかけについて、2021年度までの研究で得られた知見を生かしつつ、即時的な分析を行い、国内外にその結果を発信することに注力した。 なお、2020年度、2021年度共に、新型コロナウィルスの流行によりトルコおよびEU加盟諸国での現地調査を実施することが出来なかった(この科研費は本来であれば2020年度に最終年度を迎えたはずであったが、期限の延長を2回繰り返した)。2022年度を迎えて海外渡航が一部可能となっても、本来であればこの科研費を用いて実施することを希望していた現地調査を行うに十分な予算を繰り越すことが出来ず、日本においてとりまとめの原稿の執筆と主に英語による成果発信(主にオンライン)を行うことに注力した。
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