研究課題/領域番号 |
15K03311
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
五十嵐 誠一 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (60350451)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メコン / 地域主義 / 地域統合 / 市民社会 / 地方政府 |
研究実績の概要 |
本年度は、メコン地域に関わるトランスナショナル市民社会に関する研究調査の結果を、英文で公表した(“Alternative Mekong Regionalism: From the Perspective of Regional Hegemony and Civil Society,” in Hidetoshi Taga and Seiichi Igarashi, eds., The New International Relations of Sub-Regionalism: Asia and Europe, London: Routledge, pp. 71-106)。 同論文では、環境、開発、エネルギー、移民労働に関わる代表的な市民社会ネットワークの活動を「下」からのもう1つのメコン地域主義と位置づけて実証的に分析するとともに、「上」からのメコン地域主義としての「メコン・コンジェスション」(多様な国際的協力枠組みの混在)の現状の整理をも行った。 同論文では、地域的ヘゲモニー(Regional Hegemony)という理論的パースペクティブを導入し、「上」からのメコン地域主義としての多様な地域的レジームと「下」からのメコン地域主義としてのトランスナショナル市民社会とのヘゲモニー的関係をも検証し、「参加型地域主義」よりも「コーポラティズム地域主義」が優位であることを明らかにした。 国際協力枠組みの実態把握のために、タイを訪問し、とくにヤーワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力(ACMECS)とメコン川委員会(MRC)に関する資料収集を行った。あわせて市民社会ネットワークに関する補足調査をも実施した。 メコン・コンジェスションについては、それを「レジーム・コンプレックス」と捉え、先行研究の分析と理論的考察にも取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
メコン地域に関わる多様な国際協力(メコン・コンジェスション)の関係(対抗、協調、補完など)を把握するために、今年度も継続的に研究調査を実施し、とくに二次文献(Asian Newsstreamなどを利用した現地新聞の分析)を大量に渉猟したが、状況が極めて流動的なこともあり、関係を完全に紐解くまでには至らなかった。とくに、対抗的関係にあったと思われる枠組み同士が協調的関係に移行するような動きを見せ、本研究課題を開始した当初からは急激に変化を遂げていることが、研究課題の遂行が遅れている理由である。 加えて、国境を跨いだ地方政府間協力についても、中央集権的傾向が強い地域であることもあって、いまだにパイロット段階にあるのが現状であり、いずれの協力プロジェクトも十分に進展しているとは言い難い。入手できる一次資料と二次資料が限定的であることが明らかとなり、プロジェクトの状況を正確に分析することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度、調査研究方法を修正しながら、改めてインテンシブな現地調査を実施し、メコン地域主義の新たな位相の解明に努める。具体的には、8月から半年ほどかけて集中的に現地調査を実施する。 まず、タイ・カンボジア・ベトナム・ラオス・ミャンマー・中国の関係機関に対する訪問調査を実施し、資料館や図書館での資料収集に努める。ここでは、国際的協力枠組み(メコン・コンジェスション)に関する追加調査とトランスナショナル市民社会に関する補足調査を行うとともに、タイ・ラオス・ベトナムでは地方政府協力に関わっている政府関連機関への聞き取り調査をも実施する。ボラティルな状況ゆえに現状の把握が困難であっても、そのようなボラティルな状況こそがメコン地域主義の現時点での位相と捉え、それをも分析可能な理論アプローチの構築を今年度は重視したい。 加えて、現時点では、越境漁業協力が比較的進んでいるタイのチェンライ・ラオスのボケオ、越境保健衛生協力が進むタイのムクダハーン・ラオスのサバナケット・ベトナムのクワンチを重点的な現地調査地と定め、事前に二次資料などを分析した上で、それぞれ2~3カ月ほどかけて入念な調査を行い、越境協力の実体を詳細に把握する予定である。 前者については、メコン川委員会が支援する越境漁業プロジェクトでもあるため、ラオスのビエンチャンにあるメコン川委員会で聞き取り調査と資料収集を行う。プロジェクト担当者には既にコンタクトをとっている。後者については、タイに事務所があるメコン疾病監視(Mekong Basin Disease Surveillance)が関わっているプロジェクトでもあるため、そこでも入念な聞き取り調査と資料収集を行う。この越境保健衛生協力は、WEBを立ち上げるなどして越境協力の自律性が急速に高まりつつあるため、この変化についても慎重にフォローする。 以上の研究調査の成果を2つの学術論文としてまとめ、学会誌等に投稿する準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1に、前年度と同様に政府間協力の実態把握を試みてきたが、状況が流動的であり、対抗的と思われた枠組み同士が協調的関係に移行するような動きも見られた。このような状況もあって、前年度までと同様に現地で調査機関への広範な聞き取りを行っても、正確な情報を入手することが難しいため、現地新聞などの二次資料の分析(Asian Newsstreamなど)と理論的アプローチの検証を優先的に進めたことで、次年度使用額が生じた。 加えて、国境を跨いだ地方政府間協力は、いまだパイロット段階にあるため、有効な資料と情報が入手できる分析対象地を絞り込むことができず、数カ月にわたる複数の地方行政単位の調査を実施できなかったことも、次年度使用額が生じた理由である。 以上のことを踏まえ、今年度の前半で調査研究方法を修正し、分析対象地を具体的に絞り込み、改めて後半から半年ほどかけてインテンシブな現地調査を実施し、国家間協力、地方政府協力、市民社会協力という三位相の関係を解明し、メコン地域主義の新たな政治的位相を明らかにする。 以上の研究成果を、2本程度の学術論文としてまとめ、査読付き学会誌等に投稿する準備を進める。
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