本年度はこれまでに得られた知見を基礎として、ドイツとポーランドにおける財政規律と政治過程をさらに分析し、これに加えて中央政府のみならず地方政府における財政規律の諸課題の分析を行った。また、EUレベルにおける再検討を行い、イギリスやイタリアの事例も比較検討の対象とした。さらに財政規律規定が実際に運用されるようになった後の政策への影響の分析も行った。時期的に重複することとなったEUを取りまく諸危機をめぐる政策展開と財政規律の問題を検討するために、移民・難民政策の展開における拘束要因としての財政規律の政治過程における扱われ方を検討し、また安全保障環境の変化にともなう軍事費と財政規律のかかわりについても検討した。 2017年にはポピュリズムの高まりを受けて、ドイツの連邦議会選挙でも右翼ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。国政レベルの選挙における財政規律問題の扱われ方は、確立された財政規律規範が選挙戦とポピュリズムの影響をどのように受けるかという問題を中心として、本年度の重要な研究対象であった。AfDは当初から財政規律を重視していたこと、既存政党は財政規律原則を堅持したことから、ドイツにおいては引き続き憲法の規定通りに赤字を出さない財政均衡が継続されることとなった。社会民主党はEUにおける連帯などの点から、より積極的な財政関与の可能性についてたびたび言及したものの、最終的に大連立政権の合意文書では大きな変更はみられず、これまで通りに財政規律を前提とした政策展開が行われることとなった。 2018年3月には西南学院大学において公開の第2回「財政規律の形成と政策移転・欧州化」研究会を実施し、これまでの成果を発表するとともに、比較検討対象となるイギリスとイタリアの専門家も加えて、意見交換と研究のとりまとめの方向について意見交換を行うことができた。
|