研究課題/領域番号 |
15K03321
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
八谷 まち子 九州大学, 法学研究院, 特任研究員 (40304711)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 世俗主義 / EU / リスボン条約 / 宗教 |
研究実績の概要 |
助成事業2年目の本年度の主な成果は、国際会議での報告(英語)、研究会での報告、「世俗主義」に関連する文献2冊をまとめた書評一作である。 口頭での報告:①2016年世界政治学会(IPSA)大会、7月23-28日、ポズナンコングレスセンター(ポーランド共和国)において、「宗教と政治」をテーマにしたセッションで、3人のそれぞれに国籍の異なる報告者の一人として、Mapping Secularism, Accommodating Religion in the European Union のタイトルで報告をした(7月26日)。②九州政治研究者フォーラム、8月30-31日、佐賀県古湯町。毎年開催の九州地区研究会において、『EU統合における世俗主義』を報告。①②の両報告では、経済分野の統合という機能性のみが論じられているEU統合において、制度構築にみられる宗教の影響を指摘したうえで、加盟国それぞれに異なる協会と国家との関係の相違を確認した。報告①では、EUは諸条約の文言においては一切の宗教色を排していたが、『リスボン条約』で「宗教団体」という用語が初めて使われた意義を論じた。報告②では、EUと「宗教団体」との意見交換のためのチャンネルを概観した。これらの考察は、宗教的な対立が顕著になっているヨーロッパ諸国において、統合体であるEUに特徴的な宗教との関係の打ち立て方、あるいはEU型の「世俗主義」の実践の在り方の考察の途上をなすものである。 書評:イスラーム女性が着用するベールをめぐるヨーロッパ諸国の論争を主題にした英文文献と和文(言語は英語)文献を比較しつつ、西欧4カ国とトルコにおける多様な論議を通して明らかになる国家による宗教の位置づけを論じた。宗教上の問題と理解されているベール着用の問題は、社会問題であり同時に民主主義の制度構築の問題でもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、生活環境の変化(退職)により時間的な余裕ができて、常に最優先事項として研究課題と取り組むことが可能であった。具体的には、2年ごとに開催される世界政治学会(IPSA)での報告およびモデレーター参加、国内研究会での報告と参加等により、課題とする「世俗主義」への理解の幅を広げることができた。その一方で、「アラブの春」に関する争点は、現実問題としての停滞状況や研究者の間での関心の低下がみられて新たな知見を得ていない。しかし、トルコにおけるクーデター未遂とその後の国内政治の抑圧的な状況が起こっているため、宗教と国家の関係に限った場合であっても、トルコに特化した多くの新たな問題と研究課題の表出という、予期しなかった状況が進展している。ただし、トルコについては、現地の研究者との直接の協力がほぼ不可能な状況にある。 対応策として実施した、2月27日~3月7日までブリュッセルでの12カ所に及ぶ聞き取り調査により、文献での知識の確認、研究ネットワークの拡大が可能となり、実りが多く有意義で満足がいく調査ができた。最終年度となる次年度の研究につながるものとなった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の残すのみとなったため、研究課題のまとめを目的とする3回の口頭報告、①アジア太平洋地区EU研究大会(EUSA-AP)報告(7月)、②ヨーロッパ国際関係論学会研究大会報告(9月)③2017年度日本EU学会研究大会報告(11月)、および英文と和文の論文を各1編ずつの執筆を予定している。 研究課題の視野を広め洞察を深めるために、宗教と政治の関係の著作が豊かな研究者1名を招聘して研究会開催を企画している。 研究課題に必要な文献を適宜入手することはいうまでもない。
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