研究課題/領域番号 |
15K03323
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
佐藤 真千子 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (40315859)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | アメリカ / シンクタンク / NGO / 民主化 / 市民社会 / ロシア |
研究実績の概要 |
本研究は、海外の民主化支援や民主化問題の研究に携わる米国のNGO及びシンクタンクがアメリカ外交おいて果たす政策提言機能について実証的に検証することを目指している。本研究はアーカイブ資料をはじめとする文献調査と現地調査により進める計画であり、平成27年度はアメリカとロシア(ロシアでの調査は別資金による)で調査を行った。アメリカでは、訪米前に連邦議会図書館に閲覧希望の資料を申請したところ、閲覧可能であったはずの資料が公開不可になっていることが判明したため、当初の予定を変更し、全国民主主義基金、カーネギー国際平和財団、フリーダム・ハウス等の専門家の方々へ聞き取り調査を実施した。 平成27年度の調査で特に有益であった点は、世界の民主主義の状況が悪化している近年の現状の改善に向けて、彼らが取り組む内容に関する情報の収穫である。世界で権威主義体制の強化と拡大が生じている状況は、ロシアのプーチン政権がNGO規制法やエージェント法など、市民社会を監視・規制する政策を次々と打ち出して成果を上げている影響による。実際、アメリカの民主化支援団体はロシアからの撤退を強いられた。中国や中央アジアをはじめとする世界の権威主義体制国家はロシアに倣い、同様の政策で市民社会の締め付けを強化している。このような「民主化の後退」が進んだ要因は、オバマ政権が対ロ政策を対ロ協調路線へシフトし、ロシアの人権状況や自由の悪化について厳しい対ロ批判を避けてきた行政府の姿勢に求められる。このような認識は上述した関係者に共通しており、次期政権に向けた政策提言へと結びついた。また共和党多数の連邦議会は制裁を含む対ロ政策を追求し、1970年代に連邦議会が主導した人権外交により(行政府に対する)議会の復権を彷彿させる対応を示していることも明らかになった。これらについて、人道的価値観を追求する米外交を考察する論文にまとめ、発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、平成27年度にアーカイブ資料の収集と精査に重点を置くはずであったが、先に述べたとおり米連邦議会図書館で閲覧可能であったはずのアーカイブ資料があいにく閲覧不可となってしまった。議会図書館スタッフによれば、研究対象団体による資料整備が理由とのことで、時期をずらして資料請求を再度試みるよう助言をいただいたので、アーカイブ資料調査は次年度以降に回すこととし、研究計画の微調整を柔軟に図っていきたい。平成27年度はその他の報告書や文献の調査と各団体関係者への聞き取り調査を行った。また、当初の計画では初年度にアメリカでの2度の調査を予定していたが、所属大学の特別研究費によりモスクワでの調査が可能となったため、平成27年度分として計上していた外国旅費の一部を次年度へ繰越した。当初の計画通りの現地調査を行うことができなかったが、これらの変更は研究の遅れを意味しない点を指摘しておきたい。というのも、モスクワでは本研究の対象であるカーネギー国際平和財団(Carnegie Endowment for International Peace、CEIP)のモスクワ・センターで調査を実施し、CEIPの組織及びロシア人研究者の存在意義について検討する機会を得たことに加え、プーチン政権による厳しいNGO規制法等の影響を受けている人権団体や市民活動家への聞き取り調査を行い、アメリカの民主化支援が撤退した後のロシアの市民社会が直面している現状を確認することができた。ロシアで得た知見は、ロシアの民主化問題に関するアメリカの政策決定過程を解明する上で、次年度以降の研究にとって有益な情報となる。したがって、研究全体の中で位置づければ、研究作業は「おおむね順調に進展している」と判断できよう。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は当初より予定していた資料の収集と精査、関係者への聞き取り調査を行う。アーカイブ資料の公開が再開されていれば、平成27年度中の実施が叶わなかった資料の入手にも努めたい。また平成27年度の調査を通じて築いた人脈を活用しながら更なる情報の入手を続けていく。平成28年度は前年度に引き続き、特にロシアのプーチン政権下における市民社会の動向とそれらに対するアメリカの民主化支援団体やシンクタンクの対応に注目する予定である。その成果は論文と学会等で発表していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では海外旅費として2回分の海外調査を予定した金額を計上していた。しかし、所属大学に申請した競争型研究費に採択された研究助成により海外調査を実施することができ、またそれに加えて所属大学の業務としての海外出張もあったため、科研費による2度目の海外調査の日程を確保することが不可能となった。そのため、計画通りの実施が叶わなかった旅費を含む未使用額を次年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は当初より予定していた資料の収集と精査、関係者への聞き取り調査を海外で行う予定である。
|