研究課題/領域番号 |
15K03323
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
佐藤 真千子 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (40315859)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アメリカ外交 / 人権 / 民主主義 / 権威主義 / 信仰の自由 / マグニツキー / 制裁 / USCIRF |
研究実績の概要 |
本研究の申請時にはまったく予定していなかった在外研修が本務校で認められ、2018年度は後期から約1年間の予定でアメリカに滞在し、研究を行うことになった。本学のサバティカル研修制度において科研費の使用が認められていなかったため、科研費を計画通りに充てることができず、研究計画を一時中断せざるを得なくなり、研究を延長申請した。ただし年度末になって本課題のために購入した図書・資料代の執行が本学で認められたことを付記しておきたい。予定外の研究年度になったとはいえ、アメリカで実施するサバティカル研修は本研究に活かすことができ、ワシントンDCに拠点を置く民主化支援や人権擁護の団体やシンクタンク等での現地調査に重点をおいた研究を進めた。 本課題における研究対象として、ロシア、北朝鮮、中国などの権威主義体制下の人権問題に対する支援活動やそれらについて専門的に分析を行っている組織、政府・議会の関係者への聞き取り、関係者が主催する会議への参加、活動現場の訪問など実施し、情報を収集した。トランプ政権下で民主・共和の分極化が進む状況においても、連邦議会は人権問題に関しては超党派で対応し、権威主義に対する非難決議や制裁法を可決しており、その政治過程と人権コミュニティーやデモクラシー・コミュニティーと呼ばれる市民社会のNGOを中心としたアクターの動向に注目した。特に、マグニツキー法とその対象を世界へ広げたグローバル・マグニツキー(GM)法の立法過程で重要な役割を果たしたアクターとネットワークがどのような動きを展開したか、GM法はどのような事例にいかなる判断から適用されたか、宗教的少数派への弾圧に対して国際的宗教自由委員はどんな行動をとっているか解明が重要であり、それらの実証研究を進めている。そこから新アメリカ例外主義や合衆国憲法修正第1条(人権保障)の外交政策における論理的展開についての考察が目指される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は当初は最終年度となる計画であったが、本務校においてサバティカル研修が決定されたため後期から在外研修を実施することになり、研究計画の変更が伴った。本務校において在外研修中の科研費の使用が不可の扱いであったこともあり、やむなく研究延長を申請した次第である。また、後期から在外研究に出ることに伴い本務校で前期中の仕事が多くなったことや日本不在中の事前対応に追われるといった事情により、当初の計画よりも研究の進捗と成果発表が遅れている。しかしそのような状況にあるとはいえ、本研究の課題は在外研修の研究を有効に活かすことが可能である。実際、ジョージタウン大学(ワシントンDC)を拠点とする在外研修であるがゆえに、当初の計画以上に多くの専門家、活動家、政策に携わった当事者への聞き取り調査や意見交換を行う好機に恵まれることになり、多数の有益な情報・資料を得ている。人権団体やシンクタンクによる活動の現場観察から、外部からは知り得なかった事実の発掘もあった。研究計画には含めていなかった国際的宗教自由委員会(the United States Commission on International Religious Freedom: USCIRF)を分析対象に加える判断を下したのも、現地調査の結果から、その重要性を確認できたからである。さらに、在外研修中の調査を通じて得た人的ネットワークと、ある講習に参加して学ぶ機会を得たデータの調査方法などは、帰国後に継続する研究の発展に大いにプラスとして作用すると考えている。そのため、研究期間の延長により最終年度の変更が生じたが、その遅れによって多くの収穫を得ており、研究期間全体を見た場合、むしろ研究成果をより有益なものにできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
権威主義体制のグローバルな広がりと市民社会に対する抑圧・弾圧の強化が進み、アメリカではトランプ政権下で二極分化が常態化している中、超党派による「人権政策」が進展している事実は重要である。全国民主主義基金(NDI)以外にもその存在が明らかとなった、連邦議会からの予算100%により運営されているNGOsとその関係ネットワークの実態と影響力、いまやあらゆる国の人権侵害に適用されるグローバル・マグニツキー法の立法過程に関与した重要な人材、その所属組織、関係するネットワークがいかに有機的に機能したのかを明らかにするとともにその問題点について考察する予定である。 2019年度は、前期中も引き続きワシントンDCでの在外研修となるため、その研究環境を有効活用して、調査収集と情報分析を継続しつつ、そこから得た結果や知見について専門家らからフィードバックを得ながら研究成果を論文としてまとめ紀要での公表、学会誌への投稿を目指し、国内外で口頭発表を求めていく。学術的な貢献に加えて、学生や一般社会に向けても研究成果を還元していきたい。最終年度の一区切りとしての研究成果をさらに発展させることを目指し、次の課題へつなげていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務する大学において当該年度のサバティカル研修が認められ、アメリカでの在外研究を実施することになった。しかし、勤務校では科研費をサバティカル研修で使用することを認めていなかったため、在外研究中に当該研究費を使用することができず本研究の一時中断が余儀なくされる状態になった。年度末になってからその状況が一部緩和され、わずかな図書の購入のみ認められたものの、それ以外の費目に充てることまでは認められていない。そのため、当初の研究計画に計上した旅費、調査補助のアルバイト賃金(人件費・謝金)、校閲代、印刷費を執行することが不可能であった。このような理由により当該年度の配分額は、大部分が未使用のままとなっている。 次年度への延長申請を行ったことにより、2019年度分として使用が可能となった資金は、サバティカル研修終了後、資料代、口頭発表の旅費、学会等参加費、投稿論文の校閲費に使用することを予定している。それらの主な使途は、最終年度としての研究成果の公表を目的とするものである。
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備考 |
沼津私立沼津高校で実施した出張講義にて成果の一部を社会還元した。(2018年9月20日)
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