最終年度の前期は前年度からの在外研修が続いており、その間は本務校の制度にのっとり科研費の使用が認められていなかったため、研究計画の遂行を一時停止する必要があったが、後半の時期にアメリカを訪問し民主化支援団体、宗教団体、国務省、連邦議会を含むトランプ政権下でグローバル・マグニツキー法や国際的宗教自由法の形成過程に関わった団体や関連専門家への聞き取り調査に重点をおいた研究を行うことができた。諸外国の民主支援に携わるNGOとシンクタンクの中でも特に宗教的少数派や性的マイノリティに対する弾圧の問題に取り組む団体によるテーマ設定、情報発信、アドボカシー活動、政策提言、いわゆる陳情活動や政治への影響、関係する国内外の団体と連携などについて検討した。中国やロシアで思想信条の違いを背景に社会や国家から弾圧の対象となっている少数派の状況について、民主化支援や人権擁護を目的とするNGOは調査活動で得た貴重な情報を公表し、情報を欲している政府関係者や人権派として知られる連邦議会関係者と連携し、政策形成で重要な役割を果たしている。グローバル・マグニツキー法の制定とその運用、中国新疆ウイグル自治区のウイグル人の人権に関する非難決議や香港人権民主化法の成立は特徴的な例である。その他にもミャンマーのムスリム(ロヒンギャ)、ベトナムのキリスト教徒、インドのキリスト教徒、中東地域のヤジディ教などへの宗教弾圧に対してとられるアメリカ政府の反応は、とりわけトランプ政権期においてアメリカ国内の政治情勢の環境変化の影響を受けている傾向が強い。トランプ大統領の支持が多いキリスト教福音主義派の団体と政権の相互の依存度が、信仰の自由を保障する民主主義社会の国際的連携と発展を志向する政策に結びついていることが明らかになった。
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